焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「まずダアトとユリアシティの関連性についてですが、概ね貴方達の予想通りになりましたよ。ダアトは全てを元大詠師に押し付け、時間もなく下手に手を打つことも出来ずユリアシティはそれを真実だと認め、これからは預言を頼りにしないなどと宣いました」
「ふぅん」
サフィールの説明にナルトの脳裏に浮かぶのは、何も出来ず血走った瞳で歯を食いしばる市長の姿。
「まぁもちろんそんなものですからユリアシティの住民は厳しい目に晒されていましてね。そんな視線に我慢できなくなった人なども出て、半年間はユリアシティ出身の人物が世界に預言をなどと言って預言復興を願う運動がありました。最もキムラスカやマルクトにおいてそのような運動をしてなびく者などまずいないとのことでしたし、そんな運動をしたものはすぐさま捕まえられていきました。それで捕まえた者に対してはユリアシティが弁護することもなかったので、そんな運動をすること自体無意味で無駄だと感じたのか預言復興を願う運動は半年程で終わったんです」
「ま、当然だってばよ」
そしてユリアシティの住民が街の制止を振り切ってまで起こした暴挙の結果を聞き、ナルトは力も主張もない人間の末路に相応しいと思う。
「ダアトはダアトでユリアシティに教団全体でグルになっていたとばらされ、道連れを食らわされるのを避ける為に食料提供をせざるを得ませんでしたからね。今までのように隠れて支援していたのではなく公に食料支援をしなければいけなかったものですから、国はともかく民の目は厳しくなったとライナーは言ってましたよ」
「だろうなぁ」
そんな問題行動ばかりのユリアシティに嫌々とは言え手を差し延べねばならぬのだ、民がダアトにいい感情を持つことは難しいと言わざるを得ない。
「そんな状況なものですから、導師がずっとトップで発言し続けるには辛い物があったんでしょうね。次第に導師が紙か何かを持って発言するようになり始めたらしいですよ」
「ん?それって常に発言する時、詠師陣の誰かが隣にいたりしてるの?」
「流石ですね、その通りです。公の場で導師が発言する時は常に紙に視線を送りつつ、導師に向けられた質問に返答を返すのは必ず詠師の中の誰かだとのことです。導師の様子はまるで譜業仕掛けのようだと、もっぱらダアト内では話になっているそうですよ」
「アハッ、だろうな!それすげぇ詠師の気持ち分かる!」
そしてイオンの状況を聞いたナルトは周りの様子を思い浮かべて軽く噴き出し、サフィールに明るい笑みを見せる。



・・・ルークが消える前から考え、イオンの性格は実年齢二歳という事を差っ引いても非常に甘いと言えた。そんなイオンが時には非情に、時には冷徹に、時には断固たる態度を、などというめり張りをつけた態度を常に求めるのははっきりと無理と言えた。

だからこそ自身の甘い考えを押し進められた上で内政・外交を行われては面倒だと、詠師陣は考えたのだろう。そうでなくともただでさえイオンは嘆願や慟哭といった同情を誘う物に非常に弱く、それで行動指針を変える事も有り得る。それがダアト全体の命運を左右するとも、深く考えず。
そんなイオンを抑制するために詠師陣が取ったと容易に推測される対策が、洗脳に近い強制的な程のこうしてほしいとの説得だ。

一応トップの位置にいるイオンに命令するのは流石に詠師には無理がある・・・が、それが懇願であればイオンには聞き入れられる。



「詠師達が導師に付きはじめたのは失言が目立ち始めた事からだそうです。どうも穏健に済ませようと厳しい視線を向けられていたユリアシティに対し同情染みた発言ばかりしてたらしく、徐々に民の目は厳しくなっていったんですよ」
「そりゃそーだろ!自分達も被害者って見せる為にあんな風にやってんのに、被害者が加害者かばっちゃダメダメ!ただでさえ加害者側と関わりあるかもって見られてんのに、そんなことしてたら疑う人が出て来るばかりだってばよ!ヒーッ、おっかしーっ!」
更に伝えられた補足にナルトはゲラゲラと手を叩きながら笑う。



・・・人が困ってるのが嫌なイオンの事だ、そんな状況で詠師達が困ってるのにその嘆願を見捨てる事もまず考えられない。だからこそイオンは余計な発言をしないよう、紙に書かれた詠師達の総意を読み上げる事に徹しているのだろう。

だがそれが自身を殺していて、その自身を殺している導師の姿こそが理想の導師だと詠師達に見られていると考えず・・・






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