焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「えぇ、良かったです。市長はその兄が研究職につけられたことについても、良かったと言いましたが」
「市長が?」
「えぇ、彼女も兄の事態については賛成していました。もうこれ以上兄が変に皇帝陛下と関わるよりは、こちらの方がいいとね。その時の顔は少し思い詰めた物がありましたよ・・・」
「あぁ・・・苦労してたんだってばね、妹さん・・・」
だがサフィールが市長の家のある方を見て話す様子に、ナルトは笑顔を消し同情染みた顔になる。



・・・苦労を感じていたのは幼少期を共にした妹も。という事はその性格も熟知していることになる。そしてその妹までもが兄の左遷をよしとした、それが兄を苦しめると知って。

・・・眼鏡狸の味方はもういない。擁護する人間はいないのだ、マルクト内に。今までの罪と引き換えにしたら死罪でも余りある程・・・そんな人間を好き好んで庇う人間などいない。

・・・恐らく軍人を退役する年齢になってようやく研究職から身を離す事が出来るようになるだろう。いやピオニーか次代の皇帝がその気になれば眼鏡狸を死ぬまで使い潰そうと、退役してからは研究者になったと言う風に周りに示せば研究所に縛り付ける事も不可能ではない。そして眼鏡狸が嫌気がさして軍人を辞めようとしたとしても、マルクトはそれを許しはしないだろう。

何せマルクトはキムラスカと比べ、譜業産業は今の時点で劣っていると言わざるを得ない。そこで科学において優秀な脳を持っている眼鏡狸をこき使い、新たな譜業を作れればマルクトは望むところだろう。よしんば失敗が続いたとしても、下手に公の場に出すよりは好ましい所だ。マルクトにとっては。

・・・マルクトが譜業により栄えるかどうか。結論はまだ出てはいないがどちらにせよ眼鏡狸に待っている結末は一生日の目を浴びない日陰暮らし、それも譜業開発で打ち立てた功績も自らが過去にルーク達に行った事で償いきれない物となる。

・・・絶対に報われない、誰にも同情を浮かべられない労働地獄・・・妹までも見捨てているとはナルトは知らなかったが、ルークが眼鏡狸に課した生き地獄・・・それが成功とナルトは確信を得ていた。



「・・・ま、それはもういいや。マルクトはそんなこと出来るくらいだからそれなりにまとまってるとは思うけど、ダアトにユリアシティはどうなった?」
そこからナルトは間を空け眼鏡狸の妹から話題を変え、ダアトとユリアシティの話題に入る。するとサフィールは茶を再び口に含み、真剣に切り出す。
「ダアトとユリアシティですか・・・私は神託の盾を抜けましたが、昔取ったきねづかで当時の部下と時折手紙を交換していましてね。その部下とはライナーというのですが、そのライナーの伝える情報と外向けに伝えられた情報・・・大いに違いがあるんです。それがどういうことか、わかりますね?」
「・・・ダアトは中身がボロボロ、って事だろ?」
「おっしゃるとおり、です」
切り出された問い掛けにナルトは鋭い視線で答え、サフィールから正解をもぎ取る。
「外向けに伝えられた情報ではそれなりにまとまってると聞けるようなものなんですが、ライナーから毎回届く手紙には一切その表向きの情報とは異なった事しか書かれていません」
「・・・信頼出来るのかってば、そのライナーっての?」
「・・・元々は私も三年間も彼と文通する気はなかったんですよ」
ふぅ、と一息吐くその様子にナルトはサフィールから哀れみを見て取る。
「元々彼は敬謙なローレライ教団の教団員だったのでダアトに残っているだろうなと思い、ルークが消えてからダアトがどうなっているのかを直に見た目線から知りたくて彼に手紙を送ったんです・・・それで返ってきたのは半ば愚痴混じりに神託の盾を辞めたいといった文章も混じった手紙だったんです」
「あぁ・・・ノイローゼになったんだ」
「文章を見る限りではそう見えましたね」
手紙にそんな愚痴を漏らすという事は不満がある、サフィールの様子もありそれが相当の物だったのだと理解したナルト。
「それで内部事情を知ったからハイ終わりなんて訳にもいかないと思ったから、彼のガス抜きがてらに手紙を交換してたんです。そのおかげで普通の人よりは大分ダアトの内部事情には詳しいですよ、私は」
「ふーん、じゃあどんな感じか聞かせてくれる?」
どれだけライナーという男が思い詰めていたのか、それが三年間に渡りやり取りで大まかだが想像出来てしまう。
それだけにナルトはある程度だけの疑いをライナーに残し、サフィールに先を促す。










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