焔と渦巻く忍法帖 第二十三話

・・・これでもう、修頭胸には逃げ場がない。



他ならぬイオンが慰謝料を返す為に働かせている、と言ってしまった事でダアトの人間にははっきりと罰が認識された。あくまでもそのためにあえて外で動いているのだと。

そのことから少なからず同情の視線は発生はするだろう、誤ってやってしまったから罪滅ぼしの為に必死に働いているのだと。だがそれ以上に事実を知られてしまっただけに悲劇のヒロインぶってしまえば、確実に同情の視線も一気に冷めてしまう。被害を与えておきながら何を泣き言を言っているのかと言われ・・・これは、やってしまえばもう確実に取り返しがつかなくなる。故に自爆するかどうかは、修頭胸自身に委ねられている部分が大きい。

・・・それに慰謝料を払うと言った事により、その義務という物が生じてしまう。これより修頭胸は最低限自分が生きられるだけの金を残した後は、残りの賃金全てを今生きている被害者の家族に支払わなければならない。その総額は法に照らし合わせれば数十万単位のガルドはいっている、兵士の賃金では到底払いきれる物ではない。

だが修頭胸はその罪によりダアト内での地位を上げることは出来ない。公にほぼ罪人のような立ち位置で活動しているのに出世などまず周りから望まれるはずがないし、人を使えるような能力もほとんどないに等しい。つまり上の位置に立っての給与アップすら出来ず、神託の盾の下っ端のまま慰謝料の支払いに臨まなければいけないのだ。そしてそれは惑星屑のスパイだったコウモリ娘も同様と言える。

・・・地道に、地道に、地道に・・・何十年単位で地道に金を稼ぐしかない。コウモリ娘は玉の輿したいなどと言っていたが、罪人という響きがつく中で誰が好き好んでそのような人間に求愛をしようか?・・・余程の変わり者か修頭胸を利用しようとする策士でもない限り、パトロンなどもまずつくことはない。つまり誰かが慰謝料を払ってくれるかもと、期待を持つことも出来ないのだ、修頭胸は。

・・・そして、その状況が全て嫌になって逃げ出したとしても意味はない。ダアト内にはもう修頭胸の噂は大分浸透してきている、周知の事実となってきているのだ。逃げ出したとしたら一斉に人々は修頭胸を罵るだろう、イオンの言葉も全く意味がないほどに。そしていずれは罪から逃げ出したとして、全世界に指名手配される事となる・・・そうなってしまえば、終わりと言えよう。

・・・修頭胸は慰謝料を払うよう言われ、そうするようにしだしたが新米の一兵士の給与などすぐ無くなる・・・故に今の修頭胸の生活は非常に苦しいと言わざるをえない、ダアトで数日暮らしただけでも相当修頭胸は参っている。

・・・もう事実上、修頭胸の人生は終わった。そう感じただけに、ルーク達の心は非常に満足感を得ていた。









「思えばヴァンの妹は何故あそこまで愚かだったんでしょうね。衆目に晒して殺人を犯しても身内同士の問題だからで済ませていい問題ではないでしょうに」
「あれの武器は杖と投げナイフだろ?人を殺そうとしたらどうあがいたって血が出るし、死体が残る。殺した後ご丁寧に辺りに飛び散った血飛沫とか綺麗に拭いて死体を引きずって帰ろうとした訳でもあるまいし、それで迷惑をかける気はなかったなんて言う気だったなんてどの口が言ってるんだって思ったな」
「その点、貴方達はそういった事には非常に気を遣っていますよね」
「とーぜん。こっちが手がける任務は失敗=死だから。俺らだけでなく、里全体のな」
サフィールの言葉にルークはおどけて肩を竦めるが、任務の大小で手を抜く気はルークにもナルトにも更々ない。あらゆる不安要素を排除した上で最善の手を尽くす、そうすれば自然と手をこまねいているよりは楽になる事を知っているからだ。
そして重い任務を必然的に担当する事の多い二人だからこそ、よりその責任の重さを理解している。
だからこそ修頭胸の愚考は理解出来なかった、もうちょっと他にやりようを見つける気がなかったのかとしかルーク達には思えてならなかった。まぁ自業自得だと気づかせてやったので今更どうでもいいかとも思いながら。







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