焔と渦巻く忍法帖 第二十三話

「慰謝料・・・!?」
・・・案の定、その提案にいい顔をしなかったのはイオンだった。



だがルークから「ファブレ公爵邸を襲ったのも事実で、その場にいた人間の人生を狂わす程の迷惑をかけたのは周知の事実。これはキムラスカに問い合わせればすぐにわかる事実、それを下手に黙ればただでさえ預言を詠めなくなっている状況で不満を持つ民衆が怒りを持つのは当然の事。それに・・・キムラスカにカイツール軍港でアッシュが多大な被害を与えた件も忘れてはいませんよね?」と言われ、トリトハイム達は勿論イオンもそのまずさに気付き押し黙った。

キムラスカに公爵邸の事を聞けばそれは当然事実を元にした答えを返されるだろうから沈黙は正解ではないとすぐわかるが、それ以上にイオンに修頭胸の事を庇い立て出来ないと気づかせたのがカイツール軍港の件だった。

・・・カイツール軍港で現在の『ルーク』である煙デコが襲撃した件、その件について多大な損害をダアトは被っている。なにせ建物が壊れ、当時港にあった船全てが動けないよう壊され、更には襲撃で亡くなった人への慰謝料・・・どう甘く見積もっても数百万以上のガルドの損失を煙デコは叩き出している。

それを考えれば煙デコは自害して当然と言える程の罪を犯しているのだが、そうもせずにのうのうと元いたダアトに損害賠償を求める立場にいるのだ。これは恥知らずと以外、言いようがない。

・・・それはそれとして置いておいて話に戻るが、今のダアトにとって数十人単位の人間に対する慰謝料を工面出来る余裕はない。ただでさえカイツール軍港の事があるのだ、宗教団体を脱却しなければいけないダアトからすればいらぬ出費以外の何物でもない。故にいらぬ同情心を掻き立てるイオンへの牽制には、ダアトの経済危機は最適であった。

更にルークは続けて「ここで彼女を放っておいて慰謝料を払わなければダアトの評価が更に落ちるのは明白。その上、未だ彼女に罰を与えていないというのであればいずれはダアトの中の人達からの不満が現れてきます。それを防ぐ為にも謝罪の意味を込め、働いた賃金を慰謝料にあて払っていると言うんです。そうしなければ・・・彼女はいつまでも不審な目で見られる事となり、最悪ダアトにすらいられなくなるやも知れませんよ?」と、最後にイオンに対し思いっきり含みを入れた視線を送った。そして予想通り、イオンはその話の内容に引き攣った様子を見せていた。

・・・これは時間が経ってしまったのもあるが、修頭胸の罪に関して何故放っておいたのか突かれたら拙い、という点も突いている。ここで迷っていたなどと言えば勿論相当な批判を受け、厳しく注意したなどと言ったら身内びいきと身内からすら言われ、考えていなかったなどと言ったらそれこそ論外で一斉にダアトから人が離れる原因を作りかねない。ダアト全体の人間達に修頭胸の贖罪について納得出来る訳を語るには現在進行形で罪を償っているとでも話さなければならない・・・イオンは暗にルークからそう言われたように感じていた事だろう。

そしてダアトにいられなくなるということも嘘とは言えない。罪を犯しておきながら贖罪もせずにのうのうと活動していたなら、不審の目を向けられる事はまず避けられない。神託の盾所属で一応軍人の修頭胸に襲い掛かる人はそうそうはいないだろうが、そういった視線の暴力に関しては止めようがない。修頭胸の性格に沿って考えるならナルトに徹底的にのめされたことにより、反論もまずまともに出来ず視線に耐え切れずに軍を辞める姿が目に浮かぶ。

・・・修頭胸に同情の余地はない、そして逃がす訳にもいかない・・・イオンにとって非常に苦い決断であったが、周りのトリトハイム達にそうするべきだと強く言われ重々しく首を振り聞いてくる人達にはそう説明するようにすると言った。







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