焔と渦巻く忍法帖 第二十三話

そして、眼鏡狸がルーク達の元に障気中和の場に敢えてピオニーから送られて来たのにもまた訳がある。



障気中和は昔の科学者が理論的に可能と考えていたと禁書を残していた事から分かるが、それは地核に突入しなければいけないリスクが伴われる。それは即ち死ぬ可能性があることを示している。
ルーク達はもちろん死ぬ気など更々ないが、それでも理論だけしか確立されていない技術に賭けるには国としては本腰を入れるには多少ためらわれる物があるのも事実。下手に障気中和に大勢の兵士を派遣しては無駄死にになりかねない。

その点、眼鏡狸一人だけなら話は違う。マルクトからすれば眼鏡狸が障気中和に失敗して死んでも、痛いという気持ちは湧かないだろう。むしろ死んでくれと思っている人がいてもおかしくはない、地核に突入したのならまず生き残る可能性がなくなるのだから障気中和の為の尊い犠牲という形でマルクトに多大に泥を塗った眼鏡狸の死を片付ける事が出来るのだから。

・・・事実、それを物語るかのようにタルタロスを障気中和の為に使う許可をもらった時の手紙に『失礼かとは思うが、こちらからは代表としてジェイドを派遣する。何か粗相をしたなら障気中和が終わった後こちらに言ってもらって構わないし、貴殿らに従わなかった場合は重い処断を下すと言っているので色々言ってもらって構わない』と書いてあった。

実際にそう命令を下されたからには眼鏡狸にはもう逆らいようがなかったことだろう、眼鏡狸の表情には貼付けられた笑みは一切なかった。

更に心象が底辺を下回っているはずのルーク達に処断の為の判断を委ねたのも、容赦なく眼鏡狸の事を失礼だと判断を下せる相手だからというのもある。あまり褒められた事ではないが、失礼だと報告をルーク達が送ったならマルクトは遠慮なく眼鏡狸を殺すつもりだ。全ての無礼を眼鏡狸一人の完全な独断だと、言い張る形で見捨てて。

・・・表向きはまた死を賭して障気中和に挑まねばならないが、その裏には自らを取り巻く国の思惑が関わっている。それに気付いているかどうかは定かではないが、表向きだけ見ても眼鏡狸は失敗が許されない状況・・・故に意気が上がらないのは当然であった。









「さぁ、行こうぜ?障気中和は早くした方がいいんだからな」
「はい・・・行きましょう」
もう失礼も失敗も許されない。ルークから早速の出発を口に出され、眼鏡狸は小さい声で同意を返す。そしてルーク達が歩き出すと、眼鏡狸もその後を追うよう歩き出す・・・






・・・そしてタルタロスはもうシェリダンに送った為、そのシェリダンに向かう船の中ルークはサフィールと船内の一室で話し合っていた。
「ヴァンの妹はあまり具合は良くなさそうですね」
「別にいいんじゃね?自業自得だし。老け髭を自分で確実に誰にもばれないよう殺せなかった罰だよ」
「でしょうね」
その話題の中心は意気消沈している眼鏡狸と同じ部屋にいるだろう修頭胸の事。椅子に座り頭の後ろで手を組みながら当たり前だと話すルークに、サフィールも同意で返す。










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