焔と渦巻く忍法帖 第二十三話

演説が終わり、ダアトで混雑の様子をしばらく眺めていたルーク達。

そのルーク達は障気を中和しに行く為に、ケセドニアに来ていた。しかし何故ケセドニアに来たのか、と言えばある存在と合流するためだ。



「よう、大佐殿」
「・・・しばらくぶりです」
その存在とは、マルクトからの代表としてルーク達に障気中和を見届けるようにピオニーから送られてきた眼鏡狸だ。
久しぶりの対面にナルト達と共にニヤニヤとした笑みで港から来た眼鏡狸をルークは迎え、眼鏡狸は明らかに意気が上がらないといった様子で声に答える。だがその様子もある意味当然で必然であった、眼鏡狸の今の立場は相当微妙な物なのだから。



・・・演説が終わってマルクトに戻った眼鏡狸。これはルーク達がつけた影分身が見てきた事から判明したことだがそこで眼鏡狸が受けた扱い、それは眼鏡狸に対する徹底した冷たい態度だった。
和平の使者としてキムラスカに向かうまではそれなりに敬意を払った態度を取られていただろう眼鏡狸。だがそれが一転、ルーク達に実態を暴かれた眼鏡狸は皇帝以下から極寒の視線で決死の覚悟をして行くようにとまたキムラスカに送られた。そしてその任を終え初めての何の任を命じられていない状態でグランコクマに戻った・・・謁見の間に入った時眼鏡狸に待っていたのは厳しい任務を終えた兵士を暖かく慰安する目ではなく、寧ろ厳しく感情のこもらない目だった。

一瞬その空気に戸惑い眼鏡を押さえた眼鏡狸だったが、続いたピオニーからの報告しろとの命令の声がより一層冷たかった事が眼鏡狸の動揺をより誘った。

だがそれでも皇帝から命令をされて黙っているだけで話が続くわけもなく、眼鏡狸はキムラスカに行った時からの流れを報告した。だが失った信用というのはあまりにも大きく、時折その言葉は止められ審議を重ねられた上で報告は続けられていった。

そして全ての報告が終わった後、眼鏡狸はすぐさま休むこともなく仕事をすることを言い渡された。本来なら他国から他国へと渡り歩くような重要な任務の後では慰安の意味で休みを言い渡されてもおかしくはないはずだが・・・その扱いが悪くなっていくことがルーク達の眼鏡狸へ与えた罰だった。

・・・そもそもの話で他国の重要地位にいる人間を見下し蔑むなど、例え1番地位の高い王位にいる人間でも許される事ではない。寧ろ王がそんな態度を取ったならそれこそ戦争の発端になるだろうが、他国の王でも許されない事を平気で行って来たのだ。眼鏡狸だけでなく修頭胸達も普通の感性で言うなら、縛り首程度では生温い罪を犯しているのは明白。

しかしルーク達の思惑通りとは言え修頭胸達は公の罪に照らされる事なく、生きている。だからこそ眼鏡狸も罰を与えねば意味がないが、罰を実施するのがルーク達では効き目は薄い。それが眼鏡狸の場合、罰を与えるのがピオニーという皇帝の役目にあるのだ。

・・・そして皇帝兼幼なじみという立場だからこそ余計に許されない気持ちが生まれる、だからこそのピオニーの取った眼鏡狸への対応は辛辣な物だった。

恐らく眼鏡狸の愚行を知って失望したピオニーは以降も調子に乗らせないよう、乗らせる機会すら与えようとしないだろう。現に影分身が眼鏡狸の担当する仕事を覗き見たが、外交関係はもちろんのこと軍を動かすような重大な機密事項に関わる仕事も渡されず、何も大佐の地位にいる人間でなければいけないような書類の処分を任されていた。それも頭が隠れる程机に高く積まれた書類が片付けても片付けてもすぐに補充される形で。

・・・元々大佐でも身にあまる身分だと自分で言っていたのだ、それ以上の身分になっていればそんな使いパシリのような扱いにはまだなっていなかっただろう。流石に将軍クラスの軍人をそのような扱いにするのは、地位を与えた意味がなくなる。

高い地位は邪魔だと昇進を受けなかったのかもしれないが、遠慮か思い上がりか知らないがどっちかが自分の首を絞めた。これは眼鏡狸自身の落ち度と言えた。







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