焔と渦巻く忍法帖 第二十二話

「バチカルはこっちとはまた違った意味で一波乱あったな」
「預言を廃止することに難色を示した民の為に、キムラスカは『ルーク・フォン・ファブレ』の存在を担ぎ上げたってばよ」
「それは・・・『ルーク様』にとってはさぞかし居心地の悪い場所だったでしょうね、私にも容易に想像出来ます」
ルーク達の愉快さを隠しきれない話に、サフィールも煙デコに対しての皮肉を交えて返す。



・・・『ルーク・フォン・ファブレ』を担ぎ上げる。その意味が指し示す所はキムラスカが預言廃止を円滑にするためというのが一つある。やはり犠牲者が身内にいる、というのは同情心を誘う。その手を使わない訳にはいかないとキムラスカはバチカルで演説の事も踏まえ、『ルーク・フォン・ファブレ』を大衆の前に姿を出させて改めて過ちを繰り返さないようにと預言を詠まないと固い決意を明かした。それを聞いた大衆達も納得していた様子を見せていた為、キムラスカの策略は成功と言えた。

・・・だがキムラスカ、いやインゴベルトの狙いはもう一つあると言えた。その狙いとは、煙デコの象徴化だ。

あからさまに同情を煽るような視線を嫌がる煙デコとはいえ、今は国内の安定に務めるのが臣民としての役目、そうしなければキムラスカは先にも進めない、そうでも言われたから煙デコは引き合いに出される事を渋々了承したのだろう。ただルーク達から見てもわかるような不機嫌さが出てたのはいかがかと思うが、今更なのでよしとする。
しかしその役目を引き受けてしまったことは段階を踏んでしまった事にも繋がるのだ、飾りの王になるのも致し方ないと大衆が思えるような気持ちを作る事へと。

外堀を埋められている・・・煙デコがその事実に気付いている可能性は少ない、煙デコは目の前の事態にしか食いつけないのだ。せいぜいこれでキムラスカが安定するくらいにしか思っていないだろう、それがインゴベルトの狙いだとも知らずに・・・



「それにあの場には猪思考姫もいなかった、まだ民の信頼はあるにも関わらずな」
「もうインゴベルトのオッサンはどうあっても、馬鹿姫を出す気はないってばね。多分しばらくしたら体調を崩して・・・とか適当な言い訳出しそうだけど」
「それが妥当な所でしょうね」
更に続けられた猪思考姫の現在の在り方とその行く末に、サフィールは同意で返す。



・・・煙デコを担ぎ上げた舞台、その中に猪思考姫の姿はどこにもなかった。インゴベルトが政治に関わらせないと言ったとは言え猪思考姫は王女、王一人だけの意見では国の一大事に関わる場で王に次ぐ地位の王女を出席させないということは出来ない。

だがそれが出来たという事は貴族達も納得したということだ、猪思考姫を公の場に出さない事を。
そしてその場はあくまでも預言廃止を煙デコの存在で訴えるのが目的であり注目の的が煙デコであったため、猪思考姫がいないという民の不審の声も特に出る事はなかった。もしそこでそのことへの疑問の声が上がったなら、旅で体調を崩したとでも説明していたことだろう・・・そこから病気を患ったとでも言い、政治から引退すると表向きに告げて・・・



「あの様子だったなら、そう遠くない内には言うだろ。厄介者は早く片付けときたいだろうしな」
「その分煙デコ猪思考姫の所に入り浸りそうだけどね、呼び出されて最初使命感帯びて猪思考姫の所行ってたのにどんどんと憂鬱な感じでその部屋に行く姿が目撃される形で」
「・・・想像が簡単に出来るだけに、あまり楽しくない光景ですね」
そしてその後の場面の想像を語られ、サフィールは眉を寄せながら軽くかぶりを振ってその光景を脳内から追い払う。



・・・猪思考姫が病気という設定なのに、ずかずかと外を全く気にせず歩かれては意味がない。だが猪思考姫は煙デコと会い、どうにか飾りの王にならないよう勉学を学ばせるようにしたいと考えるだろう。そう考えれば煙デコが猪思考姫の所に行くくらいしか解決方法はないのだが、それこそナルトの言ったように煙デコがなる可能性が非常に高い。

・・・結局過去を大切に、綺麗な物として美化しかしなかった者同士の婚約関係だ。その思い出を元にした感情を捨てて割り切る事が出来ねばいずれは何もかもめちゃくちゃになるだろう。それは煙デコ達だけでなく、キムラスカの命運も・・・ルーク達はそう考えていた。







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