焔と渦巻く忍法帖 第二十二話

その姿を見て二人はトリトハイムが上手く処分を伝えられたのだと、確信を得ていた。



・・・もうこれよりはいかにコウモリ娘が足掻こうとも、ダアトから逃げる事はかなわなくなるだろう。借金は一中流家庭では到底返しきれない金額、もし一生を注ぎ込んでも返しきれるかどうかは非常に怪しいとしか言えない。

恐らくタトリン夫妻は娘に苦労をかけていたことを知って少しは姿勢を改めるだろうが、スパイの事実を知らない為にコウモリ娘に謝りながら借金の返済に勤しむ事だろう。だがそのスパイの事実を知らない両親がかける声が何よりコウモリ娘の心を責める事になるのだ。

何も知らず、何も深く考えず、誰が傷つくことになるのかを見ようともしなかった・・・そんな人物達の行動に振り回されたというのに、当の本人達は娘の犯した行動すら知らずにただ見当違いの優しさで一緒に頑張ろうなどと言う・・・これだけの無責任さの上で自らの犯した罪を突き付け親を罵倒することも叶わず、ただじっと耐え忍んで借金を返すために働かなければならない。しかもそれがいつ終わるかも分からない・・・

・・・いっそコウモリ娘にとって、無限地獄と言っても差し支えのない状況。全て借金を返済し終えるとは限らないし、いっそ思い詰めて楽になろうと自殺でもするかもしれない。だが自殺はコウモリ娘からすれば余程の事態にならなければ中々踏ん切りがつかないだろうから、数年単位ではまず無理だろうとルーク達は考えている。

・・・どう行動するにせよ、コウモリ娘に打てる手などない。そう考えればルーク達はこれからの人生に苦労するその姿に、愉快だという気持ちを抑える事は出来なかった。









・・・そんな風にコウモリ娘がダアトに飼い殺しになったが、この数日で時を同じくダアト全体にも大きな波紋が押し寄せていた。
その波紋とは教会の前に溢れ返る人の波の事だ。
「毎日毎日きつそうだよなー、あんな人の流れに揉みくちゃにされんの」
「俺だったらやだってばよ、一々真相確かめるためにダアト訪れて来る人をなだめるなんて」
教会の上から見下ろすルーク達は体を張って入場規制をする神託の盾兵士に一切同情心を浮かべてはいない。



・・・ダアトにこのように人が集まっている理由、それはナルトが言っているように惑星屑と老け髭の真相を確かめに世界各地から人が集まって来てる為だ。

やはりケセドニアで演説をしてその時の話を人聞きに聞いただけで全てを納得しきる人間は少なかったようで、実際に預言の事や老け髭の裏切りの事実をダアトに聞きに来る人が集まって来た。

始めの内は人もそれ程おらずダアトもあまり難儀をしていなかったのだが、日を追う事に人の数は多くなり今は教団員総出でその人の波に対応しなければいけない程の物となっている。

イオンやトリトハイムなどは忙しくなりだしてから休みを取っているのか怪しいくらい疲れているようで、人々の求める話の説明役に率先して立っている。

しかしそこまで神託の盾が人の波を抑えなければならないほどダアトに溢れかえっているのは、老け髭達の真相を確かめるのとはまた別の理由があった。



「やっぱ戦争の黒幕が預言で一部の人間がやってたとは言えダアトがそれを成してたなんて知ったら、反発は起こるわな」
「つっても今までの戦争全部が仕組まれていたなら普通は嘘だって思うってばよ。今神託の盾兵士の胸倉掴んでなんか叫んでる人のように」
ナルトの視線の先にはやたらいきり立った中年男性とその男性に酷くからまれ、困惑しながらなだめようとする姿が目に映る。



・・・そう、このダアトに集まる中の一部の人達の目的にはその疑いを晴らす事もあった。







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