焔と渦巻く忍法帖 第二十二話

「借金を返してもらう為にタトリン一家にはダアトで働いていただかねばならない、それはよろしいですね?ですがそのような時に人の為にお金を使う事がいいことだなんてタトリン夫妻に思ってもらっては話になりません。まず手初めにタトリン夫妻に借金の事実と、その負債額からもう教団は肩代わりしないと伝えるのがいいでしょう」
「それはよろしいですが・・・アニスの行った事も夫妻に伝えるのですか?」
「その点に関しては伝えませんが、あくまでもアニス・タトリンが妙な行動を起こさない場合です」
「・・・え?」
トリトハイムはスパイの事実を遠慮がちに聞くが、ルークから返ってきた答えに目を丸くする。
「こう言う事は言いたくはありませんが、彼女の起こした出来事はただでさえ各地で評価の堕ちている大詠師の味方です。しかもタルタロスに乗っていた兵士達は大詠師の命令で神託の盾に襲われました、とても外交的に見て許される事ではありません。マルクトにはアニス・タトリンがスパイをやっていた事実は導師の願いで今の所伏せられてはいますが、導師の寛大な処置に甘えてその心に付け込み借金を踏み倒そうと自分だけでも逃げ出す可能性は否定できません」
「まさかそんな・・・ダアトから逃げ出すなどと・・・!」
「無いと言えますか?借金の返済に今まで従事してきて、これからは何の枷もなく生きるかと思いきやまた借金返済の日々・・・普通に考えて逃げ出したいと思えますが、そんな時に隣にいるだろう導師はアニス・タトリンが脱走したとしたら厳罰を下せると思えますか?」
「・・・いえ、思えません・・・」
脱走の可能性の示唆にトリトハイムはすぐさま反論するが、その環境が非常に整っていることを告げていくと途端に声量が落ちる。
・・・どっちにしてもコウモリ娘からすれば脱走の材料は揃っているのだ、それをトリトハイムに教えるのは必要事項と言える。
「そのための抑止力になる必要があるんです、貴方が」
「・・・え?」
「確かに導師やカーティス大佐などが事実を黙っていてくれる分にはもしアニス・タトリンが脱走しても、スパイの事はバレはしないでしょう。ですが私はそのような不純な行動を許す気はありません。もし彼女がダアトからいなくなったりなどしたら、スパイの事実・・・それら全てを世界にぶちまけます」
「!!」
だからこそトリトハイムを追い詰める必要がある。ルークはダアトにとって最悪の事態を引き起こすであろう言葉を威圧感を伴わせ。全面に押し出す。
「それらの事実が彼女が逃げ出した後に世界に振り撒かれたなら、ただでさえ立場の悪いダアトは様々な憶測を立てられより一層立場を危うくするでしょうね。まぁ最悪の場合は何故スパイを擁護していたのかって言われ、導師が事情があったから理解してほしいと言ってマルクトの被害を全く考えてない言い訳をして、信用を更に失って戦争の火種を作って攻め込まれる・・・なんて事も十分に有り得ますね」
「・・・っ・・・!!」
・・・ルーク達に向けて言ったことだが、イオンなら同じように事情を理解してくれと馬鹿の一つ覚えに言っても全く不思議ではない。だがその時は噂が世界に流布された上でコウモリ娘がいないのだ、矢面に立つのは本人ではなくダアトと両親にしか向くことはないだろう。そして本人は仕方ない・ゴメンなどの言葉でごまかし、罪を償う事も表舞台に立とうとする事もなくヒソヒソ生きようとする姿が容易に目に浮かぶ。
そこまで考えていることはトリトハイムには言わないが、イオンに対しての皮肉も交えた状況にはっきり恐怖を覚えカタカタと震え出している。
「ですが、貴方がちゃんと動いてくれるなら話は変わります」
そんなトリトハイムに、話題転換とともにルークは射抜くような鋭い視線を送り、震えを止まらせる。










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