焔と渦巻く忍法帖 第二十二話

「話を聞けばタトリン夫妻は自分達が騙されている事にも気づかずお金を人に譲渡し、質素でも自分達が生活が出来ればいいくらいのお金があればいいと考えているようですが・・・これからのダアトではそれでは話は通りません。恐らくタトリン夫妻は人の為と思ってお金を借金してまで用意していたのでしょうが、アニス・タトリンをスパイにする為にお金を貸していた大詠師はもういません。そんな状況でこれからのダアトは運営指針を見直さねばならないのに、そのように教団の首を絞めるような借金を貴方は大目に見れますか?」
「いえ、見れません」
「とは言ってもタトリン夫妻は借金の重要性という物を非常に甘く見ています。いえ、下手をすれば借金していたという事実すらも夫妻の間には伝えられていない可能性すらあります」
「まさか、そのようなことが・・・!」
トリトハイムは借金の事実すら知らないのではと言われ、信じられないと首を横に向けルークから視線を反らす。そんなトリトハイムにルークは借用書を再び目の前にちらつかせる。
「この額をご覧になりましたね?いくらなんでもこんな金額にまで行けばどんなにお人よしでも、いやお人よしだからこそ返済の義務という物に勤しもうと考えねば人の常識を疑います。夫妻は詐欺で金を巻き上げられた事にも気付かず、後々に大詠師が後始末をする上でアニス・タトリンにだけその事実を伝え手駒とした・・・そうでなければまず説明がつかないのですが、もしそうでないにしても借金をここまでの額以上に借りれるなんて考えていたというなら最早人間失格とまで言える程一般常識が欠如していると言えます」
「・・・っ!」
実際はどちらでも人間としての常識が欠如していると言えるが、後者は特に酷い。まぁどっちにしてもダアトにとっては迷惑極まりない物で、トリトハイムは改めて勢いよく振り向いて借用書を食い入るように凝視する。
「もう一度お聞きしますが、タトリン夫妻がこれから借金をすること。それを大目に見れますか?そして夫妻に借金をしてもいいと思えますか?」
「いいえ。例え援助を求めて来ても、私はそれを許す気にはとても・・・」
「そうですね、それが普通の選択と言えます。ですがそれだけでは問題は解決しません」
二度目の確認に夫妻の借金を許さないとトリトハイムは有り得ないだろうと首を振りながら答え、ルークは更に問題提示する。
「ここに借用書がある以上、お金は返してもらわない訳にはいかないでしょう。例えそれが国家レベルで問題になる犯罪であっても借金を返そうと、アニス・タトリンは大詠師の元で働いていたのですから。ましてやこれが運営資金で払っていたなら、尚更です」
「はい・・・」
トリトハイムはルークの話に納得する。
・・・だがこれはダアトの為だとはルークもナルトも微塵も考えていない。



・・・もしトリトハイムに借金の事を明らかにせずにいたとしよう。数年後にはダアトの仕組みは変われど、タトリン夫妻はまた金を巻き上げられて借金塗れになっている可能性が非常に高い。だが惑星屑という後ろ盾がなくなり、ダアトの稼ぎの元である教団への献金が預言を詠まなくなったことで信者が減って激減するだろう時に夫妻を救済しようという輩はまず現れないだろう。

夫妻に関してはルークもナルトも一切の関わりを持ちたくもないので、首をくくるなり自分の愚かさを身を持って知るなり好きにすればいいと考えている。

・・・だが何故夫妻に二人は関わりたくないのか?それは二人はただ人がいいだけの馬鹿が悪人より嫌いだからだ。人の為だと公言しながら、人を騙す悪人の役に立つ。悪人は悪を自覚して行動を起こすからまだ割り切っていると言えるが、人を見極めもせず思考を一方向に投げ出すことは善ではないと二人は考えている。それが悪よりも余程たちの悪い愚行だとも。

・・・そしてそんな二人を止める事が出来なかった、ルーク達の攻める対象である子供のコウモリ娘。数年経ってコウモリ娘が夫妻の借金の事実に気付いたとしたら、高い確率の上でダアトから逃げ出す可能性が強いだろう。

二年前の十一歳の頃のコウモリ娘は両親の説得も出来ず、惑星屑の借金を返す為に手駒となることを受け入れた。だが数年後となれば話は違う。

数年もすれば両親を見捨てようと決心する考え方に変わってもおかしくはない。いや寧ろ考えない方がおかしいだろう、何せ惑星屑の束縛が消えて時代も変わっていくのにお人よしが変わらない人間に付き続けようと考えるなら、最早それは狂人だ。



・・・もしダアトから逃げ出されたら罪の意識に苛まれる事も少なくなり、寧ろ大手を振ってこれからの人生を謳歌する可能性すら出て来る。故にルーク達はダアトを利用するのだ、コウモリ娘をダアトに閉じ込める為に・・・







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