焔と渦巻く忍法帖 第二十一話

・・・老け髭がそれを悟ったのかはもはや定かではないし、それを確かめる気もルーク達には微塵もない。何故なら老け髭はこれから死ぬのだから、他ならぬルーク達の手によって。






・・・そしてラルゴも含めた老け髭達三人は等間隔に配置され、正座をする形で首を前に差し出すように影分身兵士達に上半身を固定され、少し数の減った群集達の前に姿をさらされることとなった。
「・・・本来でしたなら罪状の読み上げをするところですが、先程の話の中でそれらは述べ上げましたので省略したいと思います・・・では始めます」
処刑に必要な段取りをもうしたからとルークは取っ払うように丁寧に言いながら、老け髭とラルゴの間に入りながら剣を抜く。そして続くように影分身兵士達がリグレットと老け髭の間・ラルゴの右隣りに行き、ルークと同じように剣を抜く。それと同時に別の影分身達が老け髭達の前に桶を置いていく。
「先程も言いましたが、こう言った光景に慣れていない方は目を逸らして下さい・・・今から首を落とします」
用意されていく物から何を行うのかを顔色から見て察してるだろう人もいたが、ルークはハッキリと処刑方法を口にして改めて注意を呼びかける。
「それでは、行きます・・・俺が殺すから死ねよ、老け髭」
「っ!」
そしてそれを告げるとルークは宣言と共に両手で剣を握り、振り上げる予備動作の為に頭を下げる。その動作に続くよう影分身兵士達も頭を下げるが、ルークは頭を下げた一瞬で老け髭に体の底から凍るような声で殺害予告をする。声に反応してビクッとルークの方を見ようと首を横に向けた老け髭が見たのは、無表情で剣を思い切り振りかぶるルークの姿だった。



‘ボ、ボトッ’
・・・何か重量感のある物が、連続して辺りに響く。だがその音の発生源は、誰が見てもハッキリと明らかだった。
‘‘‘‘・・・‘‘‘‘
群集達も覚悟していただけあって、その光景に口を挟む物はいなかった。そこにあった光景は老け髭達の首と体が首を斬られ、首が桶の中に落ちてその体だけが役目を終えて血を首元から噴出するだけの虚しくそこに佇む物だった。
(これで大体終わりだな、後はちょっと色々細かく整理すりゃいい)
・・・そして老け髭達を殺した当の本人であるルークの心に去来したものは嬉しいとか爽快とかいうものではなく、淡々とこれから先の事を次に考えようという思考だった。



・・・別段ルークには老け髭に特別な思い入れはなかった。好意をどうひっくり返っても持てないとは言え、次元を超えてまで殺したいと思い続ける程の強い気持ちもない。あくまでもこの世界での禊を断つ為に老け髭の野望を終わらせようと考えたが為だ。そこには思い入れなどあろうはずがない、ただの通過儀式のようなものなの。ルークはそのような気持ちで老け髭達の計画を潰していった。

・・・ただ禊を行う為とはいえ、常識を疑うような思考回路の持ち主達の集まりに出会った事にルークは本気で頭を悩ませた。見下され使い捨て扱いされることは分かってはいたが、老け髭に関してはそこまで苛立ちを感じてはいなかった。寧ろ苛立ちの度合いとしては修頭胸達の方が強かったと言える。何故ならそこまで近いと言えるほど、老け髭と一緒にはいなかったからだ。

しかしその点で修頭胸達は下手にルークと離れる事が出来ないだけに、その非常識さに辟易とした。



(つーか無駄にショック受けてんじゃねーよ、うぜぇ。覚悟って文字辞書で調べてその無駄にでけぇ胸に行く養分を頭に行かせて頭に叩き込め。いや、それよりも胸にでも覚悟の意味を入れ墨入れて常に反復学習しやがれ)
ふと修頭胸の方を見れば明らかに顔を青ざめさせて親しい者の死を受け入れたくなさそうに口元に手を置いている。その様子にルークは盛大に心で毒づく。
(これからはてめぇらが加害者だって覚悟して意識することになんだから、ちゃんと覚えとけよ・・・)
自分自身の身を清める為の禊の儀式は寧ろ修頭胸達が本題ではないか?
ルークは自分本位の考えから未だ抜け出せない修頭胸を見て、仕上げに入る事を心で告げて群集達の方へ向き直った。












神と呼べる存在の言葉は焔達に地に落とされた



神を信仰する団体の信用も多大に失われた



世界の変革はこの場より始まり浸透していく、栄光を掴む者の死で・・・



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