焔と渦巻く忍法帖 第二十一話

「全てを三人から聞いた我々はルーク様を幽閉された地から助け出した後グランコクマにアクゼリュスの住民を救出したことを報告し、その後事の真意を確かめる為にもとバチカルに戻りました・・・そこで大詠師に話を振ると、明らかにうろたえる様子を見せました。その様子から怪しいと感じて大詠師の荷物を調べた時に出て来たのがこの譜石・・・」
話ながらもルークが手元から取り出したのは、惑星屑が確かにインゴベルト達に見せた時のその譜石。この譜石は惑星屑の遺品とも言える物で、バチカルで使っていた部屋に置いてあった物を拝借したものだ。
その譜石を見て群衆達の目がそこに集中する。
「そして導師直々にその譜石を詠まれた時、出て来た預言は間違いなく先程言った内容でした・・・」
‘・・・そんな・・・っ!?’
‘けど導師が詠んだんだろ・・・!?嘘な訳が・・・!’
愕然とした声がまばらに聞こえて来るが、導師がと頭についた事で群衆達からはハッキリとした反発は出て来ない。これが修頭胸が詠んだと言ったなら疑いの声もありえたが、流石に導師相手では野次も飛ばせないのだろう。
「我々は大詠師を尋問しました、貴方は何故導師ですら知り得ていない国の存亡にかかる預言の詠まれた譜石を持っているのかと。そして何故謀略を持ってしてまでそんなに大量の人を殺すような預言を実行しようとしたのかと。その質問に観念したように、大詠師はその答えを話してくれました。話を要約しますとその譜石と預言は代々ローレライ教団の要職についていて、尚且つ確固とした預言保守の意志を持った者が自分と同じく預言を実行出来る者を見つけて細々と内密に受け継がせていた物だとのことでした。大詠師はその預言を実行に移そうとしていたとのことでした、謡将をその預言の実行者として。ですが謡将はその預言を更に欺かんと、ルーク様を・・・」
‘‘‘‘・・・’’’’
群衆達はもはや言葉を失い、呆然としてしまっている。あまりにもスケールの大きい話にいかんとも出来ない気持ちになっているのだろう・・・だが、それでいい。今はぼんやりとだが預言に対し違った視点を持てるよう、興味をそそれればいい。
今はあくまでも悪役は惑星屑と老け髭達、その程度の認識でいいと考えながらルークは譜石を手元に戻した。
「・・・話を戻しますが、そうやって全てを話した大詠師に対し我々はヴァン謡将がその裏で色々動いていた事も合わせて話しました。謡将がそのような行動を起こした決定的な理由を話す事で、大詠師の心変わりを期待する意味で・・・ですが、無理でした」
‘‘‘‘?’’’’
諦めたような顔に変わるルークに群衆達の顔が疑問形に変わる。すると処刑台の階段を上がり、影分身兵士がルークに軽い礼をして木箱を手渡す。群衆はその光景に再びなんだと集中して見ていると、影分身兵士は役割を終えてすぐさままた礼をして退散していきルークはその木箱を持ったまま話を続ける。
「話を聞いた大詠師は顔色を悪くしたと思ったら、何を考えたのかその懐から短剣を取り出しインゴベルト陛下へ一目散に走り出しました。その時インゴベルト陛下を大詠師からお守りしようと、兵士の方がその前に立ち塞がりましたが大詠師は立ち止まる事もせずに寧ろ加速していき・・・このような姿へと変わりました」
「「!?」」
‘‘‘‘!?’’’’
その時の場景が見えるような語り口からルークが木箱を開けると、老け髭と群衆達の顔が一瞬で驚きに変わる・・・そう、そこにあったのは苦悶の表情で死んだままの惑星屑の首だ。
「その勢いから兵士はやむなく大詠師を止めようと剣を抜き、その方は大詠師を刺しました・・・その時の大詠師の様子は錯乱としか言えず、陛下の身を案じると殺す以外に方法はありませんでした・・・」
その苦悶の表情が一転して錯乱した物に見えるのは、共通して必死な感情だから。だがそんな些細な違いを感じさせないよう、大詠師の死を悼み悲しんでいるかのように下を向いているルークの顔に、群衆達は責めるような目をしていない。逆に辛かっただろうと言った視線が浮かぶ。しかし老け髭達の目は一切同情的な物は浮かばず、嫌疑的そのもの。とは言え惑星屑の死が自分達と同列に出されているのだ、いくら鈍くても自らに降り懸かるかもしれない問題を察知出来ない訳はないだろう。
そんな複雑な感情が色々混ざった視線を受けながらルークは木箱のフタを閉じると老け髭達とは逆の足元に置き、毅然とした表情を作る。










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