焔と渦巻く忍法帖 第二十一話

「まず先程言いました障気に汚れたアクゼリュスの地をどのように扱うかの議論をする必然が無くなります。崩落した大地は液状化した大地に呑まれ、他の外殻大地を降ろす前に綺麗さっぱり消える事となります。そうなれば一つ問題が片付きます。次に先程も言いましたがアクゼリュスが崩落したなら、その跡地からこの大地が外殻大地であることと魔界という地の存在が確かにあることを世界に知らしめる為のきっかけになるんです。これは話を民に信じてもらう為の絶好の材料と同時に、このまま預言通りにしてもいいのかという考えを植え付ける為の絶好の機会となります。その機を逃してすんなりと外殻大地を降下させたなら、民は外殻大地降下という全人類の命運をかける偉業をたいしたことないなどという目で見られかねません・・・ここで大切なのはいわば、人々に危機感を持ってもらう事なんです。これからも預言に頼っていたなら、滅びの道を歩んでしまうのではないかと身を持って知ってもらうために」
「だからあえてアクゼリュスを降下させずに崩落させる、か・・・だがアクゼリュスが崩落することを知っていてあえてそれを見過ごさなければいけないとは、アクゼリュスの住民に知られたらさぞ恨まれるだろうな。故郷を消してしまって・・・」
ルークから話された利にピオニーは心苦しそうな顔を見せるが、特に反対するような言動は出て来ずに崩落させることを前提として話をしている。
「確かにこれは酷い事です。いくら世界の為とは言え、そこに住まわれていた方々の故郷を消すような案を行う事は。ですが今は感情を世界滅亡の逆の秤にかけ、感情に重きを置く訳にはいきません。だからこそ我々はこの案を心の中に固く奥に納めて、せめてアクゼリュスの人々がこれよりの世界にて真っ当に暮らせるように配慮すべきです。それがあの人達に対するせめてもの贖罪というもの・・・」
「・・・そうだな、確かにそうだ。すまない、ルーク殿・・・」
「いえ、出過ぎた事を言ってしまいすみません」
そんなアクゼリュスの住民を想うピオニーにルークは慰めではなく、あえて自らを戒めるように厳しく生きろと言う。ピオニーはそんな言葉に心苦しそうにしていた顔を消し、真摯な瞳で頭を下げルークに礼を言う。そんな礼にルークは首を横に振る。
その声を受けピオニーは頭を上げると、今度はこの場にいるマルクト軍人達へと顔を向ける。
「・・・ゼーゼマン、ノルドハイム、アスラン。俺はアクゼリュス崩落をあえて見過ごす事に決めた。お前達もその案に従ってくれるか?」
その声には強い力がこもっており考えを譲る気はないという気持ちと、共犯者になって黙っていてくれるかと否定をした場合には何か有無を言わせない強制的な意思があった。
「・・・私も、賛成でございます」
「私も・・・」
「異論はありません」
その問い掛けにゼーゼマンを皮切りにノルドハイム・アスランと、暗い面持ちながら同意を返す。
「・・・という訳だ。マルクトはアクゼリュス崩落を策として受け入れる事とする。だからヴァンを両国に引き渡す、と言った意味を教えてはくれないか?」
この場にいるマルクトの代表全ての意思の確認を終えたピオニーは本題だと言わんばかりに、老け髭をキムラスカとマルクト二つに渡すと言った意味を問う。



だがここでこれ以上の事を話す時期ではない、
「それはバチカルに行ってインゴベルト陛下からピオニー陛下と同じようにアクゼリュス崩落の是非を話し、その答えをいただいてから連絡を送ろうと思っています。あくまでも両国の協力あってこそ成り立つ代物、片側だけが肯定しても意味はありませんので」
「・・・そうか」
ルークはその答えを明言せずに後で伝えに来ると告げる。本来であったら皇帝陛下から聞かれた事には正直に答えなければならないが、今はルークの方が精神的な立場は上。ピオニーはその策の重要性もあり、何も言えずに受け止める以外出来ない。



「心配しないでください、インゴベルト陛下達ならわかってくれますから(ま、絶対に了承させるし)」
そんな様子に心の声と実際に出す声に差がありながら、ピオニーを労うように笑顔になるルーク。
・・・次の目的地のバチカルこそが老け髭の意趣返しへの策を為す為に不可欠であり、バチカルでインゴベルト達に首を振らせたならほとんど意趣返しを終えたような大きな物となる。
その笑みが実際はそれを成し遂げるのが楽しみだと知らないピオニーは、ただ「ああ」と返すばかりであった。







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