焔と渦巻く忍法帖 第二十一話

「アクゼリュス、崩落だと・・・?アクゼリュスはそこの本物のルークが超振動を使わねば、崩落しないんじゃないのか?」
事前に説明した預言の内容と今のルークの話の内容にズレがあると、ピオニーは煙デコに視線を向けながら当然の疑問を上げる。
「それはアクゼリュスは元々超振動を使わずとももうパッセージリングの耐久年数の限界が近く、近い内に自然崩落するという可能性が高い事から言っているんです」
「何・・・?」
「そもそもの兆候はアクゼリュスに障気が蔓延していることに他なりません。元々障気を避ける為に作られたこの外殻大地、なのにその障気が魔界から溢れ出した事。その様は例えるなら古い家の隙間の空いた天井に、その隙間から立ち上る火事の煙のようなものなのです。そして火事というからには何も対策を取らなければ、その家に待っている結末は・・・侵食してきた火によって全てを燃やし尽くされ、灰となった家の後だけです。今のアクゼリュスは世界規模で言うなら真っ先に焼けて落ちる板の部分、もう壊れて枯れはじめた板は時の流れという火の勢いに負けるだけの存在。誰かがあえてアクゼリュスを滅ぼさずとも、アクゼリュスは自然と時の流れで崩れる命運だったんです」
「・・・マジか・・・」



障気を避けて人を生かす為に作られた外殻大地、そんなものが安々と障気を人が住まう地上に通したならこの世界は二千年も持たず人の歴史を終わらせていたことだろう。つまりアクゼリュスに蔓延した障気はパッセージリングからのメッセージでもあった、もうリングが限界であるという言葉なき悲鳴をリングの代わりに障気が代弁しているという。

そして火事に遭う家という例えは言い得て妙な物で、ピオニーに否応なしに事実だと植え付けた。ルークの話にピオニーは顔を手で覆い表情を隠す。だが声色が明らかに低く落ちている事から、容易に弱い表情になっていると想像出来る。



「パッセージリングがそのようになっている今、もはやアクゼリュスに行くのは危険です」
そんな弱っているピオニーに追い打ちをかけるよう、ルークは話を続ける。
「まだ私達がアクゼリュスに到着した時でしたらまだディスト殿から聞いた手段を使えたんですが、今現在におきましては更に板の隙間と呼べる部分はパッセージリングの限界により増えていることでしょう。今のアクゼリュスは障気が噴出した当時に比べたなら、格段に障気の強さが増して更に人のいられるような場所になりつつあります。そのような状況ではもう下手にアクゼリュスに入る事は出来ません」
実際は医療忍術もある上に清浄な空気と障気まみれの空気との空気吸い分けも可能な訳だが、そんなことをやる気もないし策をぶち壊すような発言をわざわざ言う理由はどこにもない。
「だから・・・このような事は言いたくはないのですが・・・もう、アクゼリュスは手遅れなんです。いつアクゼリュスは崩落するかわかりません。ならばいっそアクゼリュス崩落という事実を受け止めた上で行動した方がいい、そう思い預言を出来るだけ色んな人達に信じてもらうきっかけにするべきだと考えたんです。魔界の存在を外殻大地という今自分達が立っているこの場から、アクゼリュスが崩落した後の地から見て自覚出来るように」
ルークはあえて悲しく厳しい決断をしたかのように、そこで話を切る。
「・・・確かにアクゼリュス崩落を止める事が出来ないというのはわかった。だがディストの言っていた手、というのはなんなんだ?もしやそれを使えばアクゼリュス崩落を阻止出来るというのか?」
そこまで話を聞いてピオニーは覚悟を決めた表情で手をどけ、話の途中にあった手段の事を聞いてくる。
「厳密に言えば崩落を阻止出来るのではなく、大地を崩さないようにアクゼリュスを降下させる方法があるんです。ですが現時点ではその手段を使ったとしても意味がありません」
「何・・・?」
その声にルークは丁寧に状況を説明しつつも、その行動は無意味だと告げる。ピオニーがその意味深な発言に怪訝な顔でどういうことなのか聞きたそうにしている。









4/29ページ
スキ