焔と渦巻く忍法帖 第二十一話

ユリアシティにて大きな成果を得て更に後々に発芽する預言保守派にとっての災いの種を植えたルーク達は次の目的地であるグランコクマへと向かっていた。









「サフィール、経過はどうだ?」
「うーん、難しい所ですね。確かにこれを元に作った装置を使えば貴方の思惑通りになりそうですが、ここには装置を作る材料そのものがありません。早い内にベルケンド辺りに行ってメドを立てておいた方がいいでしょうね」
「そっかぁ、材料がねぇんじゃどうしようもねぇよな」
タルタロスの一室の中でルークは一冊の古い本を机の上に置き、サフィールに対して軽く肩をすくめる。
「まぁそれは後回しでいいや、どうせもうちょっとしてからでないと緊張感を煽る事が出来ねぇもんな。それにそんな時間もかかんないんだろ、あそこ?」
「ええ、あそこまで行けばもう末期だとヴァン自身が言っていましたからね。それに貴方とナルトに不都合が生まれる程に遅いようなら、ナルトが直接手を下すのではないのですか?」
「おっ、よく分かってるじゃんサフィール。俺じゃなくてナルトが行くって言うなんて」
「結果的にヴァンの望むような行動を今更貴方が取るとは思えませんしね。多分貴方一人だったなら影分身にでもやらせたのでしょうが、ナルトがいる今彼がその代わりをするのは極自然な流れです」
「んー、それだけじゃ答えとしちゃ半分正解ってとこかな」
「?」
「それ以上にあいつ、でっかいもんぶっ放すチャンスあったら逃したくねぇって思ってんだよ」
「ああ・・・そういう事ですか・・・」
ルークの答えに納得するしかないサフィール。
・・・この話し合いは二人の間にだけ通じる抜けている言葉を入れればとてつもなく不穏な物となる、だが二人だけしか室内にもその周りにもいない状況で会話を聞いている者などいるはずもなかった・・・












そして数日も経った頃には、タルタロスはグランコクマの内港へと入港した。



「ご苦労様です朱炎殿、導師、そして皆さん。連絡は承っております、こちらへどうぞ」
「ええ」
銀髪のマルクト軍服を着てルーク達を迎えに来たその将校の挨拶をするその清廉な態度に、ルークは多少機嫌が上がるのを自覚しながら頷いてその後を付いていく。だが導師と呼ばれたはずのイオンはまだユリアシティの事が尾を引いているのだろう、将校の言葉に答える事もなく暗い顔を覗かせ黙って後について来るばかり。



そして将校の案内でルーク達はすぐさま謁見の間へと通された。だがその場には以前来たような気安い雰囲気は一切ない、むしろ厳格そのものとしか言えない緊迫感がルーク達にまで纏わり付いて来る。
(当然だよなー、あんな風に失策を痛烈に批判したのにそれで変化なかったら単なる馬鹿でしかねぇよ)
真正直にいるピオニーは特にわかりやすく、笑みなど見せず口を真一文字に引き締め油断を見せずに丁寧にこちらを伺っている。流石に懲りたといわんばかりのその姿を見て馬鹿じゃなかったようだとルークは軽口を叩くように思いつつ、ピオニーの前まで歩いて立ち止まる。
「お久しぶりです、陛下。只今バチカル及び、ダアトより戻りました」
「ああ・・・報告は受けている。まずは礼を言わせてもらう・・・すまなかった、そしてありがたく思う。戦争の空気になりつつある状況で策があるとはいえその言葉通り貴殿らを送り出した事、その圧倒的不利な中でキムラスカと戦争を起こさないようにしてくれたことを」
ルークからの挨拶を受けピオニーはまず謝罪と謝礼を誠意を持って頭を下げて行ってくる。
実際問題として敵の本拠地とも呼べる場所に眼鏡狸だけしか共につけなかった、これはルーク達が望まなかった事もあるが事実上見捨てたにしか思えない態度。しかしそんな状況であるのに奇跡と呼べる戦争阻止を成し遂げた事、それには感謝以外の気持ちは浮かばない。
誠意以外にピオニーはルークに報いようがない、そんな態度を見たルークはあえて口調を厳しくする。
「顔を上げてください、陛下。そんな様子では我々がダアトに行った時の話をすることなど出来ません、これはマルクトが重要な役割を担わなければならない話なんですからね」
「・・・何?・・・どういった話なんだ?」
誠意は見せてもらった、だが弱腰の協力者はいらない。そんなピオニーを試すような声にピオニーは少しの間を空け、顔を上げる。
「その話をする前に、出来る限り人払いをお願いします。この話は迂闊に聞かれていいものではありませんので・・・」
「・・・わかった」
人払いを頼む事で話が重大であることを印象づかせることになるが、それとは別に負い目がある。ピオニーはその頼みに重々しく頷いた。









2/29ページ
スキ