焔と渦巻く忍法帖 第二十話

「預言が詠めなくなりつつある中でただでさえダアトって存在の確立が危ぶまれているんだ、世論は当然そういった方向に向かう。そしてそんな状況で神託の盾というダアト最大の自衛の兵力も、当然預言の為に忠誠を誓って来た兵力の大多数が離れていく事は避けられない。そうすりゃどうだ、どれだけダアトが預言保守派の行動と関係ないって言ったって残るのは戦争に踏み切られるには十分な理由と・・・ダアトが滅ぶという、間違いない絶望感だけだ」
「「「「・・・っ!!」」」」
そして更にダアトの生命線にも繋がる神託の盾の崩壊を口にして、戦争になってもどうしようもないとはっきり告げて詠師達の恐怖を煽る。その恐怖に染まるトリトハイムの顔にルークは市長に向けていた指を向ける。
「わかるか?あんたらがちゃーんとしねぇと、ダアトもやべぇしあんたら自身の命もあぶねぇんだ。危機感を持って自分達でダアトをしっかり管理しないと・・・食われるぞ」
自分達にしっかり強調をすると、ルークは顎をしゃくるように市長を指し食われると冷たくトリトハイムを笑んで見下ろす。



・・・ダアトとユリアシティ、例え一般の教団員にさえ知られていない物であったとしてもその繋がりは創世歴から続いている。

だが本当に信頼あるもので結ばれていたのなら、その絆は揺れ動く事はなかっただろう。ルーク達の揺さぶりにも一朝一夕には揺るがず、更なる手を使わなければならなくなるくらい。

・・・だがユリアシティとダアトの全てがそんな関係になれなかった事が、二つの組織を大きく分かつ物となった。



「そんな状態になっていいのか、あんたら?なぁ、答えてくれよ。自分で考えて、どうしたらいいと思う?状況を打破するには」
そこで初めてルークは情報を与えるだけでなく、トリトハイム自身にどういう判断を下すのかを質問してみる。
「・・・そんな状況にならないようにするには、それは・・・私達がしっかりとしたダアトの舵取を行う事です。今度は大詠師のように一人だけでダアトの総意を決める、ユリアシティの意志を強く受け取った人間がダアトの決定権を握らないように見張りながら・・・」
「詠師・・・!?」
トリトハイムの口からはっきりとユリアシティを敵とまで言っているように見なした、信用の一切ない言葉が強い視線つきで出て来た。市長は完璧に見放された発言に呆然とするが、ルークはその発言から残りの詠師達とイオン達に振り返る。それはそれはいい笑顔で。
「トリトハイムさんはこう言ってるけど、あんたらはどうなんだ?」
「私もその意見に異論はありません」
するとその笑顔に即座に詠師の一人が即答でトリトハイムに同意する。更に詠師達が私も、私もとこれまた息の合った様子で詠師全員が同意する。
・・・明らかに自らに不利な展開だと感じてしまったのだろう、市長はただ一人答えを出していないイオンへと期待するような弱い視線を送る。
「・・・僕も、その意見に賛成です」
「導師!?」
だが穏健であるはずのイオンから出されたのは詠師達との同調。市長ははっきり裏切られたかのように声をあげるが、元々からしてイオンは争いを好まない。ましてや起こる問題が戦争となればイオンは戦争の起こらない方に行くのはわかりきった問題、それが戦争を巻き起こすかもしれない不安を醸し出す相手に行くなどそっちの方がありえないだろう。



・・・正に孤軍、もはや市長に奮闘出来るような要素は一切残っていない。勝算・信念・状況・・・何一つとってもそれはルーク達によって、全てへし折られていった・・・
しかしそもそもの話からして、市長がここまで追い込まれるに到った理由は市長自体にない。
「・・・モース、ヴァン。お前らが余計な事さえしなければ預言は成就されたものを・・・」
全て、水泡に帰した事を悟ったのだろう。預言の為に行動していた自分の想いという、狂信が。
もはやイオン達に同調してくれと言えない市長はすさまじく苦々しい顔で天を仰ぎ見、恨み言を呟いている。







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