焔と渦巻く忍法帖 第二十話

「あ~あ、な~に言ってんだろうなぁこの爺さんは。俺が提案してんのはあくまでも実行犯じゃない、ダアトを保護するために出した案だぜ?それを取り潰そうとしてまで預言を詠む環境を維持しようとするなんてなぁ・・・気がしれねぇよ、あんたの」
明らかに意気が一気に砕かれた市長を見て、ルークははっきり見下した笑みを浮かべる。市長ばかりではない、詠師達やイオン達も何も言えずに口をつぐむ。
・・・ルークの出した案をはっきり否定したのは市長のみに外ならない。だがその案は現在のダアトにとって、自らの考えを持てないダアトにとってはもはや生命線に等しい。その庇護を破棄する考えを表した市長に対し、イオンはどうかは知らないが詠師達は身勝手で秘密主義の市長に不信感が強くなっていることだろう。
「そ~んなあんたの考え方、放っちゃおけねぇな。ホントはこんなことしたくはなかったけど・・・ま、身から出た錆ってやつだ。しっかりと受け止めな」
「・・・え・・・?」
そんな分裂の空気で酷く場が重くなる中で、ルークは預言を詠めなくなる事実に繋がる前置きをする。イオンの戸惑いの声が上がる中、ルークはその最高の呪縛を口にする。






「ユリアシティの住民が預言実行に踏み切っていた事実、それを両国にばらしてやる」






「「「「「「!!!!!」」」」」」
ダアトにとって、ユリアシティにとって、預言保守派にとって・・・最悪な言葉が放たれた。
「今までは一応あんたらの立場も考えて、このごまかしはこの場にいる俺らの中だけで納めようと思ってたんだけどなぁ。その考えを踏みにじったんだ・・・このことははっきり両陛下達に報告させてもらう」
確認するまでもないがこの一同の中で立場が上なのはルーク、それは話を主導してきたことで詠師達にも理解出来ているだろう。
そんなルークの機嫌をはっきり損ね、ダアトの元々苦しくなりつつある立場を更に苦しくした・・・
「お、お待ちください!朱炎殿!どうか、どうかそれだけは!」
報告をすると聞き、青い顔色をしたトリトハイムが荒々しくガタンと音を立てて椅子から立ち上がると必死な形相になり、ルークに走って近づいてくる。
「あくまでも・・・あくまでも我々は貴方の考えを尊重したいと思っています!あの発言はあくまでも市長単独の発言です!我々の総意ではありません!」
「そうです!朱炎殿!」
「っ!・・・トリトハイム・・・皆さん・・・」
ルークに近寄るなり服を掴み、なりふり構わず市長を指差しながらあいつのせいだから止めてくれと声高に叫ぶ。そして更に続く別の詠師のトリトハイム援護発言にイオンと売られた市長が信じられないといった視線になる。



この場合どちらが正しいかと言えば間違いなく詠師達の判断だ。何故ならルークの行動を見過ごしたなら両国の人間に対して預言を詠めなくなるどころではなく、ローレライ教団という存在自体の存続が危うくなる。

もし両国にばらして世界に公表されたなら、燻っている種火は一気に加速して燃える事だろう。老け髭のように預言に対し負の感情を持つ者や事実を知り預言の実際の歴史を知ろうとする者による、ダアトやユリアシティに対しての更なる預言暴露への情念という炎が。

預言を信じられなくなる条件が揃い更には全てを操っていた黒幕とも呼べる者達の存在・・・例えダアトにいる全ての人員がユリアシティの真意を知らなかったとしても、惑星屑が大詠師という地位にいたことで下手なごまかしでは一切押しかけて来た人達は納得することはないだろう。

全てがダアト不審の状況に繋がる中で、唯一救いと言えた罪のなすりつけが通用しなくなる・・・例え預言が詠まれなくなる状況であっても、そればかりは避けないといけないと詠師達は考えているのだろう。その結果の果てに、ユリアシティを見捨てる事になろうとも・・・



詠師達の必死の訴えに周りが何も言えなくなる中、ルークから出たその答えは・・・








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