焔と渦巻く忍法帖 第二十話

・・・はずもなかった。



「・・・成程、確かに事態の鎮静化には貴方のおっしゃる案が1番妥当な所でしょうな」
「・・・市長?」
詠師達とイオンが言葉も出せずにいた中、市長が納得したような口ぶりになる。だがその声色には一切預言が詠めなくなることに対して絶望が感じられず、イオンがその暗さに市長と呼ぶ。
「ですがそれはあくまでも預言の中身とヴァンのやろうとしたことが表沙汰になった場合だ」
「・・・ほう、それはつまり?」
だが市長は一切イオンの声には答えず、ルークに高圧的な発言を向ける。その意図に気付いたのだろう、ルークは不敵な笑みを浮かべる。



「今この場で事実を知る貴方方全ての口を封じれば、それで済む話です」



「「「「!?」」」」
市長の最大にして預言信望者の特徴である、預言最優先に事を考える悪癖が事実の隠蔽を選択させた。
口封じという力技を選んだ市長の発言に案の定一同は驚きを隠せない・・・が、そんなものはっきり言えばルーク達の考えていた展開の一つに過ぎない。より一層ダアトの評価を地に落とす為の。
「し、市長・・・貴方は何を言っているのですか・・・?」
「言葉の通りです、詠師トリトハイム。貴方方も預言が詠まれなくなるような状況など望んではいないはず。ならばいっそ、この場で導師を除く方々を全て黙らせればそれで事は済みます」
同じローレライ教団に属するはずのトリトハイムですらもがその発言を疑うが、市長はいたってそれが最善であることを全く疑う事なく口封じ、すなわち殺す事を口にする。



・・・だが気付いていないのだろうか、この場にいるメンツの危険性を。実質的な実力についてはルークとナルトはもちろん語るに及ばず、更にはシンク達六神将が元も含め四人もいて名ばかりは大層立派なマルクトの死霊使い眼鏡もいる。いくらユリアシティにいる住民全てを集めたとて、この場を切り抜ける事は難しくないと市長が気付けないのはどうだろうか。例えルークとナルトの実力を全く知らないとしても。

だがそれ以上に単純な力より厄介な物がある、あくまでも実力行使に頼るような状況ではないことでルークはその厄介な物を最大限に利用する。



「うっわ、バッカだなぁじいさん。んなことやったって全く無駄だっつーのに。つーかやったらやったでより一層墓穴掘るのがわかんねーか?」
「・・・何?」
不穏な発言を安々口にする市長をはっきりルークは馬鹿にして、やれやれと首を振る。そんなルークに明らかに気分を害したのか、怒りを滲ませる。
「ここにいる人達がどんな人達かわかって言ってるの?キムラスカの公爵子息に王女殿下、マルクトの大佐殿。そんな人達が一斉に消息不明、なんて事になったらどうなると思う?」
「・・・・・・っ・・・!!!」
そう、実力以上に厄介な物とはこのメンツの立場にある。今言ったルークの立場にある人間をここで殺したなら・・・当然、疑いの目はダアトに向く。
思いつきが最善だと考えていた市長の思考を即座に最悪の物でしかないと言うと、市長は途端に怒りを忘れて顔面を最大限に引き攣らせる。
「もし口封じを実行に移した後でごまかそうとしても無駄にしかなんねーよ。一応マルクトにはダアトの港から報告の手紙を出した、用事が済んだらすぐにそっちに向かいますってな。それで・・・いつまでも俺らがマルクトに行かなかったら、どう思うだろうな~マルクトは。あ、ちなみに念を押すけどマルクトは預言の事とヴァンのオッサンの事実は知ってるぜ?」
「あ、あぁ・・・っ・・・あぁぁっ・・・!」
そして更にマルクトという事実を知っている国を盾に出し、市長の力尽くのごり押し苦し紛れの愚挙を起こさせないように歯止めをかける。
・・・流石にそこまで言われてやっと八方塞がりの状況に陥ったと気付いたのか、市長は壊れたように奇声を上げて頭を抱え出す。
だがあえて嘘を一つ上げるとするならルークはマルクトに手紙など出してはいない、ただマルクトの存在を気付かせる為にそう言っただけのことだ。






・・・これでもうダアト、いや預言保守派には打てる手は一つもなくなった。そして最後にこれから預言保守派が動けなくなる、狂信者達にとって悪魔の呪いに等しい宣告の時間が訪れる準備が整った事にも繋がった・・・







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