焔と渦巻く忍法帖 第二十話

「導師・・・大変心苦しい事は理解出来ます。ですが、現状では朱炎殿が言われているように大詠師をスケープゴートにする以外にダアトを守る手立てはありません」
「!?・・・何を言っているのですか、トリトハイム・・・!?」
「これは元々我々が関与していないこと・・・その問題を我々が背負う事などありません」
「ですが・・・!」
「ならば導師。どう責任を取るというのですか?ユリアシティの存在を明かして、預言通りにいかせる為に大詠師がその代表として動いていた、導師である私はその動きを知らなかった、責任は出来る限り取るから許してほしい・・・などと言って民に説明するつもりですか?・・・そのような甘い事を言われるようであれば間違いなくダアトは終わりますな。少なくとも私はそんな事態を承認は出来ません」
惑星屑を見捨てる発言をはっきりとした、それを受けてイオンは信じられないといった表情になりトリトハイムに真意を問う。だがそんなイオンのはっきりとしない甘いだけの心に、トリトハイムは根拠のない愚策だけは止めてくれと立場が下であるはずなのにイオンを冷たく突き放す。
「それに・・・この問題は大詠師と市長を含めた、ユリアシティの預言を知る住民達が我々に何の相談もなく引き起こした事です。我々に責任はありません」
「詠、師・・・!?」
ここで責めの手がイオンから自分とは関係ないと思ってトリトハイムに同意ばかりしていた、市長に向けられる。
「そうではありませんか。貴方方は私達に何も知らせず、ただ大詠師にその預言を実行する事だけを求めた。この一連の流れに私達は関与させてももらっていないのです、それを今になって何を今更・・・事実が明らかになったならダアト全体も一部の人物しかその事を知らなかったという事に非難の声をあげるでしょうが、その大元になった貴方方への非難はその非ではありません。恐らくですが少なくともマルクトからは貴方方を引き渡せなどといった声がかかることは容易に想像出来ます、下手をすればそれ以上のことも・・・」
「「・・・っ・・・」」
ダアト、そしてユリアシティ。全体を通して投げ掛けられる悪評と最悪の結末にイオン、それと市長が反論の糸口すら見せられずに息を詰まらせる。トリトハイムだけではない、他の詠師達も同調して責めるような視線を二人に送っている・・・



ここに来て、トリトハイムと詠師達の市長との心情のズレが生きて来た。全てを知り内密に事を進めて来た者達と、何も知らされずただ後で事実を最低の状況で知らされた者達・・・

何も知らされずにいただけあって、置かされている状況に対して必死に理解力と危機感を高めていった。それが導師であるイオンであろうと、遠慮など一切見せずに妥当と思える意見まで出せる程に。



「だからこそ、朱炎殿がおっしゃられた大詠師をスケープゴートにというのはありがたい申し出なのです。我々にとって・・・最大限に。市長、貴方もそのほうがいいとわかるはずですが」
「え、えぇ・・・」
「導師、貴方の意見はどうなのですか?」
「・・・もう、そうするしかないというのが貴方の意見なんですね、トリトハイム・・・」
・・・この期に及んでまだ他人の判断を聞こうという態度はいただけないが、諦めながらもそうするしかないと理解しているそぶりなだけマシだろう。市長は断る理由も惑星屑が全て責任を負ってくれるだけにないため頷いて、イオンはどうしようもないとようやく悟ったようにトリトハイムに話し掛ける。
「私の意見はそうなりますが、この場で考えを述べていないのは貴方だけ・・・最後に貴方の考えは貴方自身で朱炎殿に言ってください、導師」
「・・・はい」
そうだと告げつつもトリトハイムはイオンを突き放すよう、自身の意志をルークに見せろと言う。トップであるはずのイオンはその言葉に肯定しか返せず、ルークへと顔を向ける。







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