焔と渦巻く忍法帖 第二十話

「ユリアシティ・・・です、か?何故ユリアシティに・・・」
トリトハイムが軽く警戒するようなそぶりを見せながら、ルークに訳を聞いてくる。
「是非とも詠師の皆さんとユリアシティに行って、そこの方々と共に知っていただきたい事があります。私からはユリアシティに行くまで、その内容を明かす事は出来ません・・・ですがユリアシティで話す事、その内容は知っておいて貴方方に損という事はございません。それだけは保証させていただきます」
トリトハイムの質問に意味深にしながら、ルークは丁寧に頭を下げる。
「それにユリアシティに行く事は導師の意向でもあります。そのことを踏まえ、付いて来ていただけると幸いです」
「・・・っ、わかりました」
更に頭を上げたルークから出たイオンの意志だという、頭を下げさせた言葉が出る。断る余地が見えないトップの言葉、トリトハイムが戸惑いを見せつつその言葉に従う意志を見せる。
「そうですか・・・では他の皆様方も一緒に来ていただけますね?そこまで時間は取りませんので」
トリトハイムの意志が見えたところでルークは周りを確認するため、詠師達の顔を見回す。だがトリトハイムが了承したので仕方ないと思ったのか、全員反論をせずに各々首を振る。
「そうですか・・・では行きましょうか、導師」
「・・・はい」
その光景を見てイオンに行く事を促させ、陰の落ちたイオンが了承を返して立ち上がる。そして導師が立ち上がったのを見越すと、詠師達もぞろぞろまばらに立ち上がる。



・・・本来ならここで導師のイオンが行こうと周りを促すのが普通であるのに、ルークの考えに未だに迷いを持っているイオンは無言で入口の方へと向かって行く・・・
(いっくら産まれて二年程度しか時間経ってねぇからってここまで穏やかに、話し合いだけで終わらせたいなんて思えるもんかぁ?お飾りでも一応教団のトップに据えられてんだから、それなりに経験あんだろ。政治は柔和の面だけで治める事の出来る程、甘いもんじゃないってわかるはずだろ。導師として惑星屑と対立してたんなら)
比較対象としてシンクを横目で一回見ると、ルークはその考えに一人歩きながら思考を深めていく。
お飾りに知識は必要はないとは言っても、ここまで甘いだけの平和に対しては頑固な無思慮な行動は惑星屑からしても迷惑だったことだろう。
どうせお飾りにするなら死ぬ前被験者イオンがしばらく姿を見せなくなったという時の事から都合を合わせ、姿を見せる事も中々なくなるように持病を患ったとでも噂を流布してイオンを導師の使う部屋から指示無しに出ないように言って最低限の教育しておけば惑星屑側の邪魔をするような中途半端な自我を持った性格にはならなかっただろうに。
恐らくそんな飼い殺しの状態のイオンだったなら眼鏡狸にダアトから連れ去られた時は強い方の言う事を聞くだけのイエスマンの子供になるだろうが、むしろそっちの方が扱いやすかっただろう。ルーク達にとっても、惑星屑にとっても、そして眼鏡狸達にとっても・・・なにしろ自分の立場を省みず、どういった行動を取れば最善に繋がるのかを理解出来ていないのだから。
(徹底してねぇよな、ダアト・・・っつーか惑星屑達。ちゃんと成長を管理しとかねーと、予想外の事をやらかすっつーのに。実際コウモリ娘一人じゃイオンの抑止力にもなんねーじゃん、馬鹿だよなー)
ルークからいえば監督不行き届き以外の何物でもない。ルークから言わせれば導師という立場を利用する為に傀儡にするほどの教育をイオンに施せば敵に回らなかっただろう。しかし現実は自分の考えに愚かな程忠実で、現実を見てもおらず、護衛の諌めも聞いてもいない・・・
(やっぱダアト関係者は総じて馬鹿になる傾向があんだよな、それに詰めもめちゃめちゃあめぇ)
イオンの教育に力を注がなかったのも、イオン自体の成長度合いがシンクと比べて変に夢を見た性格になってるのもどこか認識が甘い、欠落したダアトの考え方にあるとルークは思っている。
(・・・まぁこれからはそんな詰めの甘い導師様を主軸に置いてダアト導いてもらうんだ。甘さは身を持って思い知ってもらうとするか)
だがそれもこれもユリアシティに行けばルークはそれを理解させる事を確定している。
イオンの後ろを歩きながらルークはうっすら笑みを浮かべた。









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