焔と渦巻く忍法帖 第四話

そもそもルークは屋敷に帰してほしいと頼んではいない。ティア曰く「巻き込んでしまった事は謝るわ。私にはあなたを屋敷まで送る責任があるわ」ということらしいが、
(責任を感じるならもうちょっとその上から目線な口調を改めろよ。自分が立場は上なんだって言ってるのと同義だぞ。謝るにしては尊大すぎる態度だろ。つーか貴族に限らず人んちに勝手に入って人殺そうとするような犯罪者崩れを簡単に信用出来るか?それを言って態度を改める訳もないと思うし。精々『その事は悪かったって言ってるでしょう!!あなたには関係ない、あれは事故よ!!』って自分本位の弁解しかしないだろうし)
と口には出さないが、呆れかえっていた。






渓谷の入口に到着したルーク達はたまたま水を汲みに来ていた辻馬車と出くわした。現在地の特定が出来てないという理由から辻馬車に乗せてもらい、首都に向かう事になった。しかし、首都までの運賃は一人12000ガルドという高価なものだった。手持ちがないと苦い顔をしていたティアが何かを取りだそうとしていた。
「これでいいのか?」
するとルークが突然大量のガルドを取りだし、辻馬車の御者にその金を手渡した。
「ああ、確かに」
金の確認を終えた御者は満足そうにしている。
「それじゃあ準備が出来たら俺に言ってくれ」
そう言い残し、御者は馬車に戻っていった。
「あなたお金持ってたの?」
「持ってちゃ悪いかよ」
「いえ、貴族って現金を持たないと思ってたから」
ティアの疑問はもっともでもある。ルークが金を持っている理由、それはこちらにいるとき暇潰しに街を見学していた時にルークは闘技場を発見し、オールドラントに来るたびに毎回違う人間に変化し闘技場に参加していた。もちろん全勝で賞金をとりこぼすことなどなかった。ルークが現在持っているガルドは100万ガルドを軽々と越えているのだ。
「んなことはどうでもいいだろ。さっさと行こうぜ」
(自分のことを言わねぇ奴に俺のことを話す義理はねぇ)
ルークは人の本質というものを見抜く事にたけている。ルークはティアという人物を好きになれないとこの短い間で確信していた。貴族だと知りつつも初めから自分にタメグチ。更には馬鹿な演技をしているとはいえ自分を心底見下した態度をとっている。自分の常識とティアの常識、育った世界が違えば常識も違うのだろうか?そういった気持ちもあるが、それを差し引いても随分と気が合わないと思っている。



(うざってぇ)
自分の質問に答えず、出発を促された事に腹を立てたのか、
「ちょっと!!勝手に決めないで!!」
と、見当違いな怒りをぶつけてきた。
(勝手なのはお前だろ)
もう会話をすることすら面倒になったルークはその言葉を無視し、さっさと辻馬車に乗り込んでいった。






(しくじった・・・)
心の声から分かるとおり、ルークは失敗していた。
(俺ともあろう者がちゃんと行き先を確認しなかったなんて・・・)
今現在向かっている先はキムラスカの首都バチカルではなく、マルクトの首都グランコクマだということが先程マルクト軍が所有するタルタロスが走っていた事と御者の言葉でわかった。その瞬間ルークは自分の失敗を呪っていた。
(苛々していたのもあるんだろうけどやけに注意力散漫になってたんだな、俺。首都に行く馬車だって言ってたからバチカルに向かうって思ってたんだけどな。ちゃんと確認すりゃよかった・・・)
らしくねぇ、と呟きルークは頭を抱えこんでしまった。



その後御者との会話からグランコクマに行けばバチカルは遠くなってしまうからエンゲーブという村で馬車を降り、国境のカイツールまで向かう進路をとるように決定した。
本来なら来た道を引き返せばケセドニアという街に行きバチカル直行の船に乗れるのだが、タルタロスが追い掛けていた漆黒の翼という連中にケセドニアに繋がる橋を落とされた為に仕方なくエンゲーブ方面から行かなければいけなくなってしまったのだ。
(少し長めの旅になりそうだな~。・・・我慢出来るか?俺。いや、失敗したのは俺だから我慢しねぇと)



ルークはこれからの旅に胃が痛くなる思いでいっぱいになっていた。




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