焔と渦巻く忍法帖 第二十話

「ですがダアトの大多数の預言保守派はモースと違い、預言の内容を知らされないままで預言の事を信じているんです。朱炎、貴方方はそれをわかっているのですか?」
聖者たらんとする教主の意向、イオンはその慈愛を敵にさえ見せて保護せんとしている。確かにこんな事実一般に知らされていたならとっくの昔にダアトからマルクトに情報が漏れているだろう。事実ほとんどの人間は惑星屑の真意など知ってはいない。
しかしルーク達ははなからそんな無関係の一般市民を巻き込む気はない。
「心配いらねぇって言ってんの。まさか俺が気に食わないからってそんな奴ら殺しまくるって思ってんのか?実際俺らが殺した奴って大詠師様や俺らに襲い掛かろうとしてた馬鹿程度で、一般市民を攻撃したことねぇだろ?」
「それは・・・」
正論であり事実を言われ納得しなければいけないはずのイオンは口を濁す。正当防衛及び預言に詠まれた戦争阻止の為のやむを得ない殺傷ですらも、イオンにとっては不審に思えるのだろう。
「・・・信じねぇなら信じねぇでいいよ」
そんなイオンのはっきり物を言わない態度にルークは首筋辺りをかきながらイオン達の間を通り抜けていく。ナルトはそれを見て嬉々と印を結び、四人分の影分身を出す。
「でも結果的に俺らはそんな犠牲を出すやり方はしねぇ、それは杞憂だったってちゃんと後で理解すんぜ。ま、どうしてもやり方に異義を唱えんなら自分で自分なりのやり方考えて行動に移せよ。その場合俺らは手伝わないけどな」
そう言い切るとルークはブリッジから扉を開けてゆっくり出ていく。ナルトはその横に一瞬で移動する。その場には未だ憔悴しきる一同、そして何も言えないまま呆然とするイオンが残っていた。



「あーあー、信用ねーのな俺ら。まっさかお優しい導師様でも俺の言葉聞き届けてくれないなんてなー」
「まぁ当然じゃねぇの?だって導師からすれば戦争を止める事と身内に甘いだけの優しさを撒き散らすのは同じ程大切な事なんだしねー」
ブリッジから出て歩きながらわざとらしく悲しむ声を出すルークに、それに合わせて肩を上げておどけて慰めるナルト。
「どっちにしてもイオンが行動を取ってもなんも変わるもんじゃないってばよ。むしろ悪化して取り返しがつかなくなるだけだし」
「その点について同意。あいつ犠牲無いように話し合いすればいいとか言い出しそうだしな、惑星屑がいなくなった今。けど今のタイミングでそんな事言い出したなら確実にダアトは割れる」
しかしそこは二人の仲、即座にふざけたやり取りを消し軽口ながらイオンの無策の行動に危険があることを確認しあう。



もし仮に預言保守派に向けて預言に戦争は詠まれています、だからもう預言に従うのは止めましょうとイオンが言ったとする。預言保守派、それも戦争が詠まれていた事を知っていた人間がそれに従うかと言えば否、それも強力な反感をもってだ。

何故なら・・・預言達成の要の惑星屑が死んでいるから、しかもバチカルで。ここで預言の歪みという物は厄介な物で、預言に付き従う事実を知る者達は惑星屑の死でイオンをれっきとした倒す敵として見る事になる。本来戦争は止められるなら止めるべきものだが預言狂いの預言中毒者達はそれが正義と断じている、どのように倫理感を振りかざしても安々と預言達成を諦める訳がない。しかもイオンはそのことに気付けていない。

イオンの性格を鑑みればそういった預言保守派の手を受けてからどうにかしようと、後手後手に回るあたふたする姿が目に浮かぶ。

世論では戦争を止めた導師として名を馳せているだろう所に、ちくちくと細工をして戦争することが正しいと思わせる作業をする預言保守派・・・はっきりとダアト内の勢力は二つに別れる事になるのだ、ろくな対策も取らずダアトに言って預言をどうにか止めようとするなら。

しかしルーク達の手の内には預言保守派すらも圧倒する、最高の手札がある。






適当な雑談を繰り広げながら、ルーク達はある部屋の前へとたどり着く。その部屋は・・・老け髭がいる部屋だった。









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