焔と渦巻く忍法帖 第十九話

煙デコがそんな飼い殺しの処置を取られるかどうかを察しているかは定かではないが、事実アッシュの名はあまりにも汚れすぎている。だがその名で活動していた事を今更明かされたならと煙デコなりにまずさに気付き、なりふり構わず命を選ぶ姿勢を見せた。

・・・その姿勢が下手な矜持を持つ者にはけして癒えない、死ぬ事のない猛毒の塗られた針の筵に座る事になると知らず。






「・・・へぇ~、それはよかったぁ」
そこで初めてルークは感情のこもらない笑顔から一転し、それはそれは盛大な侮辱を含んだ心からの笑みを見せる。
「でしたらしっかりと学を学んで実績を残さないといけませんね?何せそれまでに結果を残せねば飾り、にしかならないんですから。陛下もお情けの機会を与えたのですからそれに報いねば・・・ちなみにもう私達も貴方を後押しする気はございませんので、あしからず」
「・・・っ!」
痛烈な皮肉を言いつつ、最後にルークは言い出そうとした言葉をわざと変えて擁護にもう回らないと言い回す。その遠回しな後は自分でやれという見捨て宣言に煙デコは拳を握り怒りを爆発させたそうであるが、もはやそれも出来ない。
煙デコからすればルークの手助けなどいるかとでもいう気持ちはあるのだろうが、それ以上にもうルークに逆らう事が出来ない事がその反抗ばかりの心に刻み込まれていた。






・・・煙デコの心理には二つの大きな楔が埋め込まれた。一つはアッシュの事実をばらされる事、これは脅しではあるが元々は完全な自主性をもっての行動でルーク達は何も悪くはない。むしろそれを現在進行形で黙っているぶん煙デコはルーク達に感謝してもしきれないはずだが、そんなそぶりは一切ない。だがそれを見越しているからこそこの楔は生きてくる。

そこで一つ目の楔が更に生きてくるのは二つ目のルークが無意味な程嫌い、という相乗効果があってこそだ。そのルークへの嫌悪感で感謝もしていないからこそ、ルークに対して助けを求める事もない。それはすなわち、絶対に飾りの王以外にはなれないということに繋がるのだ。

普通に考えてただの貴族の跡取りならまだしも、王になる為の知識というのはそれ相応に量が必要になる。その点で言えばやはり七年という無為な時間を過ごし、貴族生活のブランクがある煙デコでは非常に厳しいとしか言えない。不可能ではないと言わない理由は寝食を忘れ三年の歳月の中で七年分以上の学を学ぶだけの姿勢と集中が保てたならあるいは、と言えるからに尽きる。事実ルークは才能があったとはいえ、二年の歳月で木の葉の里のNo.2の実力を持つ暗部へとほぼ前例のない躍進を遂げた。

・・・だが煙デコが絶対飾りの王になるというのはその自身にある。煙デコは自身の想う最高の環境にいるとは思ってはいない、実際は今自分がいる立場が最高でそれ以上は存在しない。そんな不満を持つ中で絶対に失敗出来ない重圧がのしかかり、更には頑張る煙デコを全く労ろうともせず馬車馬のように学を学ばせ続けようとするであろう・・・猪思考姫という最愛の存在が邪魔で邪魔で仕方なくなることだろう。

全く心が休まる事のない環境で成功以外の結果を求められず、隣にいる人物に責っ付かれ続ける状況。それでもよこしまな気持ちを持たず一心不乱に打ち込めば出来ない事はないだろうが、元々から不満を持っている煙デコにこの状況を作ったルーク達に恨みを向けない理由がない。

ルークに感謝することもなく、無意味にルークに対しての状況への恨みつらみで心の中ほとんどを占めながら国を変える程の政策を考える・・・こんな人物が無事に王になれるなどと胸を張って言える者など、まずいない。だがそう不満を溜めてはいても・・・もう煙デコはルーク達に逆らう事は出来ない。命を選んだ瞬間既にどちらが上なのか精神的にも決まっていたのだ。

・・・負の連鎖は絶えず、絶えずメビウスの輪のように煙デコの中にいつまでも回り続けるだろう。ルークを恨み自らの考えを変えない以外に・・・メビウスの輪は解けない。そしてその輪を三年後までに解かねば、煙デコは晴れて飾りとなる事が決定する。飾りとなる事を煙デコ以上に拒否する、猪思考姫とともに・・・






苦汁を舐めさせボコボコにした姿を見ているルーク達は心底満足だったが、これからは自らが手を下さずともこれ以上の苦しみを勝手に味わう事になる。そう思えば思う程ルーク達は更なる愉悦を覚え、口角が上がるのを禁じ得なかった。








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