焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「それに私は貴方との子供以外産むのも嫌ですし、貴方が他の女性とそういった行為に及ぶのは以っての外ですわ!だから結果を残してくださいまし!ルーク!」
「ナ、ナタリア・・・」
狂乱といった様子で尚自らの感情をぶつける猪思考姫に、煙デコは無理だと言いたそうに困惑しながらその名を呼ぶ。そこでルークは猪思考姫の後ろに行き、煙デコと正面から笑顔を突き合わせる。
「何を戸惑っていらっしゃるのですか、ルーク様?ファブレの家に戻りファブレの名を名乗っているのですから、王になることは当然の事ではありませんか。それに自身でファブレに戻りたいと言ってバチカルに帰られたのではありませんか?」
「なっ・・・てっ、テメェ・・・っ!?」
軽く煙デコが確実に怒りを覚える言葉でルークはありのまま煙デコに言わせた事を述べる。案の定沸点を超えようとした煙デコの怒りだったが、その声は途中で止められた。その訳は、
「怒る理由はどこにあんのかなー、兄ちゃん?そうだろ?後は自分次第だから、駄目だった場合は自分以外に怒るような奴いないだろ?八つ当たりするようじゃ、立派な王様になんかなれるはずないってばよ」
煙デコの背中にいきなり音もなくナルトがおんぶの形で抱き着いたからだ。むろん突然抱き着かれた煙デコは一瞬よろめくがすぐに体勢を立て直し、続いた言葉に顔をしかめながら直立の姿勢でナルトを振り払おうとしない。
「・・・ですが実際ナルトの言う通りですよ?・・・それとも、貴方は‘ルーク・フォン・ファブレ’に戻りたくないと今更おっしゃられるのですか?」
そのナルトを気にするでもなくルークは話を引き継ぎ、更に煙デコがカンに障るであろう発言で問い掛ける。



・・・本来ならここでまた馬鹿の一つ覚えの声の張り上げで返すとこだろう。だが今度は違った。
「・・・・・・・・・っ!」
ルークの言葉を受け返事を返すかと思えば、みるみると煙デコの表情に変化が現れて来た。徐々に大きく開かれていく目にその広いデコに浮かぶ大粒の汗達、それに引き攣りかかってプルプル震えている唇に血の気の薄くなっていく肌。明らかに一気に崩れたその顔から出て来る言葉は何もない。流石にその様子にインゴベルトも猪思考姫も怪訝な目になるが、何か言葉が出る前にナルトが背中から下りてルークの隣に行き同じように笑顔になる。
「どうしたってば?もしかして‘ルーク・フォン・ファブレ’に戻るのって話聞いて後悔してる?あっもしかして、あの髭オッサンの所にいたほうがよかったりした?戻りたいって言ったのって、俺達に気を使って仕方なくだったりしたの?ん?」
「!!そんなことはない!俺はこの場所に自らの意志で戻った!もうあそこに戻る事など・・・ありえん!」
ナルトはその笑顔のままで不穏極まりない質問を首を傾げながらする。その瞬間煙デコははっとした顔つきにいきなりなり、全てを振り切るかのようないっそ気持ちいい程の大声で老け髭の元にいたいのではという疑いを払拭する宣言をした。その勢いのいい言葉に二人は安心し、特に猪思考姫は心からホッとした様子で再び涙まで浮かべ神でも見るような目をしている。






・・・さて、いきなり煮え切らない態度からの心変わりをした煙デコ。どういった理由があってそうしたのか、それは答えを明かせば単純な種。その種とは・・・いきなり煙デコに抱き着いたナルトが、ある言葉をこっそり煙デコにしか聞こえないように耳元で囁いたからだった。

その言葉の内容もいたって単純、更には既に言っている事を言いかえただけのことだ。その内容は・・・



『それともこれ以上文句があるなら元アッシュって事、ばらそうか?』



抱き着いて普通の声量の声の後、悪魔の囁きのような闇すら感じられるその声色・・・その声と内容は、煙デコの立場が実際は薄氷の上の危険な物だと煙デコ自身に理解させるにはあまりにも十分過ぎるものだった。

・・・マルクトがアッシュという存在を犯罪者として認識しているように、キムラスカもアッシュという存在を犯罪者として認識している。そんな中でアッシュだと明かされたなら・・・煙デコが言い渡される判決は政治に関わる云々の問題ではなくなってしまう。



もし仮にインゴベルトにその事実が伝わったなら今更煙デコを殺す事はしないだろうが、まず政治に関われなくなるのは当然である。試しの機会すら失われた煙デコに更に襲い掛かるのはかつてルークが受けた監禁以上の監禁という、人に会う事すら滅多にない状態が飾りの王にのしかかるだろう。そして子供が産まれたなら即座に退位を強制させられ、政治とは遠いリゾートとは名ばかりの僻地に飛ばされその生涯を閉じる事を望まれる可能性が非常に高い。








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