焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「・・・かざ、り・・・子供、だけ・・・それ、は、どういう意味、なのですか・・・?」
ルークの言葉に息すらまともに吸えなくなったのか、制止状態になった煙デコの代わりにやたら途切れ途切れの聞き取りにくい猪思考姫の言葉が場にこだまする。
「いかに政治に関わりの薄い王とはいえ、その身には次代の王や王女といったお子を宿させる為のキムラスカの王族の蒼き血が流れております。そのことに関しましては他のどのように優秀な貴族とて、代わりを務めあげる事など出来ません。そこでもしルーク様が政治での実績を残せず、薄幸の王となったとしたならルーク様とナタリア様に課せられる最大の公務は次代のキムラスカを担うお子を宿らせる事となりましょう。ですがそれを成したならば貴方方は子息の能力次第、更には向上心次第ではそう遠くない内に退位を求められる事となる可能性が非常に高くなる物と思われます」
「「!!」」
男女の営みからの産物であり、夫婦の愛の結晶ともいえる子供。その子供が産まれたなら自らの退位を招く、間違った意味で息ピッタリの二人は有り得ない論理ではないルークの話に驚愕を隠せずにいる。だがルークの話は終わらない。
「いくら陛下から温情をかけられて薄幸の王という称号を掲げて玉座に座っていても、政治において力となれぬ王に変わらぬ忠誠心を貫ける方は稀有な者と言えます。その稀有な者以外はまずルーク様への心象を王となられた十年以内には下げられる物と思われます。いくら身上を察してもそこは人、不信の感情は高まるばかり。そこでその不穏な空気を防ぐ為にも次代のお子を宿らせる必要があるのですが、そのお子が産まれたならそこで子供を生んでいただきたいという期待がそのお子にキムラスカを一刻も早く担っていただきたいという期待に貴族や民達の視線が変わります。つまり実質貴方方の役目がほぼ終わりを告げる事になるのです、次代に役目を託す事で。少なくとも貴方方以外のほとんどの人がそう感じている事でしょう。そうなったら象徴の王すらいらないという事になり、もうその玉座にいるのは王という名の動く置物と見られる事は間違いないと思われます」
「!!・・・そ、んな・・・」
王と女王の役割が子供を作る事だけを望まれ、その後はいつその子供に玉座を追われるかもしれぬ恐怖とはっきり飾り以下の扱いを受けるやも知れぬ恐怖。
二つの恐怖に押し潰されそうに頭を抱え後ろによろめく顔面蒼白の猪思考姫だが、ここで更にルークは追撃をかける。
「もし玉座を追われたくなくてわざと子供を作る事を避けたとしたなら、貴族達はどうにかしてどちらかのお子を作るよう要求するでしょう。二方の間での営みで子を成せなかったなら、別の相手をあてがい子を宿すまでその行為を行うようにと。ルーク様が別の女性と子を宿されたなら妾の子としてその子を王族とし、ナタリア様が子を宿されたならルーク様との間に出来たようにしようと進言されるでしょう。ですがまたここで問題になるのが・・・ナタリア様がキムラスカ王族の血を引いてらっしゃらない事です」
偽者であることを指摘され、猪思考姫はその場に制止してしまう。また何か言われるのか、そんな怯えた様子で。
「ナタリア様はそのような事をしてお子が産まれたならどうしても直面する問題、紅い髪に緑の瞳を持ったお子が産まれない事が問題となります。そのことから陛下はナタリア様を偽者だと判明させないためにいかなる手を使ってでもナタリア様に相手が来ないよう阻止するでしょう。ですがその影ではルーク様は否応なしにあてがわれた女性に子を成すようにしなければいけなくなります。そしてその女性に懐妊と言う兆候が見られたなら先程のように飾りの王と女王として扱われるようになり、更にはお二人の仲と行動を訝しむ民も出て来るでしょう。最悪仮面夫婦と呼ばれ仲睦まじい行動を取ったとしても、それは明らかな民へのご機嫌取りだと呼ばれ本来好意を持った相手同士で子を宿す事もその民の風評で成せなくなってしまうんですよ、何故ならお子を宿した場合なんで今頃とより一層の悪評を受けることになるんですから・・・それらを踏まえればお二方がお子を成そうと成せまいと、どちらにしろお飾りのまま終わって早く退位を求められるという結果以外待っていないんですよ」
・・・現実、それに煙デコと猪思考姫が想いあっているこの状態。その二つを織り交ぜたルークの攻撃に、猪思考姫は・・・その場に膝から崩れ落ちた。
「・・・あっ・・・あぁっ・・・あぁぁっ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
すると突然猪思考姫から鳴咽かと思われた声から、段々と強い声が出て来て最後にその声は女が発するとは思えないようなおぞましい、もはや悲鳴とも言えぬ叫びへと変わっていた。









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