焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「・・・!?」
「お父、様・・・!?」
学を身につけるまでは政治に関わらせる気はない、そんな案に煙デコは驚きで声を上げれないが代わりに猪思考姫が信じられないという響きでインゴベルトに問い掛ける。その真意を聞かせて欲しいと。
「ルーク、そなたに経験と学が不足しているというのは今話した通りだ。だからわしはそなたにせめて学を身につけるだけの時間を取らせたいと思いこの案を出したのだ」
「それ、は・・・確かに、そうですが・・・ですが、私は成人を迎えればナタリアと結婚のはず。その時に私が政治に一切関わっていないというのは・・・」
インゴベルトの至極当然とも言えるその案に煙デコはどうにか状況を変えようとしたのか、一般的な視点から見たある意味では当然とも言える次期王が政治に関わらない事の拙さで訴える。確かに政治経験の一切ない者が全ての経験を後に置いて次期王になるための結婚を先にやるなど、反感を民から買いかねない。



・・・だがそれは政治もこなす王、であったらの話だ。
「確かにその点は問題ではあろう。だがだからと言ってそなたを未熟なまま政治に出す訳にはいかん上に、正式な婚約を果たす時期をそのために変える事は許されんのだ。もしその時までに十二分と言える実力を身につけ実績を残せなかったとなれば・・・そなたをヴァンがさらったが為に不遇の時を送った、薄幸の王という称号に包ませ象徴的な王にする」
「「!!」」
・・・そう、悲劇を彩らせた名をつければ民の反感を買う事なくお飾りの王として玉座に座る事が出来る。
「もちろんわしも退位はしても、助言などは贈れる。その言葉があれば貴族の者達は納得はしてくれるだろう」
お飾りの王とはいえ一応王は王、最終的な判断は王に任せられる事となる。そこで実績のある前陛下が太鼓判を押すならば貴族の不満は出にくいだろう、ただ傍目から見れば‘傀儡政治’といった見方をするものもいるだろうが。
「・・・私は、そのような政治を行いたくはありません・・・!私は自らの力でこのキムラスカを変えたいんです・・・!」
煙デコはそんな政治の事を話されて、やたら綺麗な言葉を用いて鼻息を荒くするような口調でインゴベルトの政治の在り方を否定する。
「だから言ったであろう、もしそなたがナタリアと結婚を果たすまでに実績を残せねばそうすると言ったまでだ」
「ですがそれでは時間があまりにも・・・!」
「泣き言をおっしゃるのですか?ルーク様」
インゴベルトのつれない返答に煙デコがその実績を残す為の時間のあまりの短さに抗議しかけるが、ルークがその声を差し止める。
「確かに期間は短いでしょう、学を納めつつ政治での実績を残す事は。今から成人を迎えるまで三年弱の中でそれだけの事をするのは。ですが貴方は自ら陛下の信頼を損ねる発言をされました。ヴァン謡将の元に監禁されていた遅れと信頼を取り戻すにはより一層の精進が必要なのは貴方もお分かりでしょう?」
ここでルークはあえて煙デコのカンに障るような、実際忠節を誓っていないのに臣下のような美辞麗句を並び立てての諭しを口にする。
「うるせぇ!テメェに何が分かる!」
案の定その反応は馬鹿の一つ覚えでルークへの反抗、しかも虚勢以外の何物でもない。
「貴方よりは貴方の立場が極めて危うい物だと理解しているから私は発言しているのですが?ルーク様にナタリア様はこのまま行けば」



「飾り物の王と女王にすらなれず、子供が産まれる事をだけ望まれるだけの存在となるのですから」






出て来る物が虚勢なのは自身がそれを認めたくないという否定から来る。だが虚勢すらも出なくなる状況は・・・絶望となる。

逃げ道はもうないのだ。そう、罪に彩られた飾り物の王になる以外に二人には・・・








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