焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「それにこのような事を言いたくはないが、そなたには政治経験という物が一切ない。ヴァンにかどわかされ、そのような経験を積む時がなかったというのも原因の一つではある。だがだからこそそのかどわかされた期間の七年というのは非常に大きな物だ。それを踏まえて聞くが、キムラスカを離れていた時にそなたは帝王学などの国を治めるに相応しいだけの学を学んだと自信を持って言えるのか?」
「!・・・それ、は・・・・・・ありま、せん・・・」
インゴベルトの執拗な質問が煙デコの致命的な部分を突き、煙デコはぎらついた目つきから一気にトーンダウンして顔を下にやり視線と声をはっきりさせずにさ迷わせる。
この質問は煙デコにとっては想像だにしていなかった質問なのだろう、あからさまな勢いの減退にルーク達は笑いをこらえるのに内心必死であった。



煙デコが老け髭の元にいる間に帝王学などを学ぶ時間があったかどうかは、はっきり言えばあっただろう。何せ六神将、勤務時間は兵士に比べ上の役職なだけあって時間はきついだろうがダアトの図書館で関連する資料を借りて暇を見つければ全く不可能な立場でもないし、拘束もされず六神将として自由に動けている。出来ないはずはない。
だが煙デコはそうはしなかった。本気で国を変えると猪思考姫と誓っていたというなら、脱走なり反逆なりでもして国に帰るべきだというのに。例え実力不足なり時期を見越すなりしたとしていても、その時の為に学を身につけるべきだというのに。つまりそれは戻る気はなかったという事の裏付けにならない。

だがそれで六神将として活動するのなら国をはっきり見捨てると少しは潔さを感じるのに、ルークにその立場への怒りをぶつけてきた。それがおかしいのだ、煙デコの愚かな思考回路は・・・故にルーク達は煙デコに生き地獄を与えんとしているわけだが。

話は戻りそんな煙デコがもし自信満々に勉強していたと言ったとしても、はっきり言えばそれはおかしいとしか言えない。老け髭の元にさらわれている、その元で学を身につけた・・・さらわれているのに何故そんな超振動目当ての捕虜に学を学べた、などという疑問がインゴベルトから出でもしたなら煙デコはもう終わりだ。下手をうてば老け髭となにやら共謀して行っていた、もしくは自らの意志で老け髭の元に行った、などと心象が甚だ落ちる考えを持たれかねないのだから。

もっとも煙デコは反応からして本当に学を修める事なく六神将時代を過ごしており、それを正直に明かしただけと見える。その性格から察して学んでいたなら自信に溢れた無駄な傲慢さでやれると言っていただろうから。だが自主的に学を学んでおらず裏付けを語らなかった事は煙デコにとっては幸いだった。何故なら理由を追求されずに、実は六神将だったなどとボロを出す事がなかったからだ。

それだけは煙デコの悪運の強さと言えた。






「・・・学も経験もはっきりと未熟と自分で認めておる。今のナタリアに対しての発言も幼子であればほほえましい物と見れようが、そなたはもう青年と呼べる歳だ。無責任な発言は好ましい物ではない」
「・・・」
冷静な開き直りの声は容赦を一切していない、煙デコは反論も出来ず視線を上げられない。
「だが・・・それも全てヴァンのせいとも言える。故にそなたに罰は与えん、与えんが少しそれを考慮して案を出させてもらう。それがそなたにも、ナタリアの為にもなろう」
「・・・それは、何なのですか、お父様・・・?」
しかしここで声色を普通の物へトーンを落とし、二人の為になるとインゴベルトは気遣いの言葉を出す。それに反応したのは猪思考姫だが、声は震えて涙も今は抑えてはあるがきっかけ一つでまた溢れそうである。






その問いかけにインゴベルトはその口を遠慮なく開く。そしてそこから出された言葉はルーク達の是非とも望む、煙デコ達への罰であった。



「それはルーク、そなたが一人前と認められるまで一切政治とは関わらず学を学ぶ事だ」









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