焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「話を続けるけどさぁ、バチカルを出た時に書き置き一つも残さず抜け出して来たじゃん。認められなかったからって自分の行動が正しければそれでいいなんて考え、極めて自己中心的過ぎて哀れだってばよ」
「な・・・何を言うのですか!もし預言に詠まれてさえいなければ私の協力の賜物で、無事にマルクトとの和平にこぎつける事が出来ていましたわ!」
インゴベルトを黙らせ話を続けたナルトの声に猪思考姫は、見捨てられたのを激情にかられて頭の中から消したように自己の過ちを見直そうとはしていない。
・・・そもそもの愚かさ、猪思考姫のそれは修頭胸と特に似通っている。それをはっきり自覚させようとナルトは激情とは正反対の極寒を感じる冷めた瞳で猪思考姫に強く睨みつける。
「ひっ!?」
「自分の行動に善があるって信じて疑わない、か。なら無自覚に王女の役目を全てを放棄した事による被害って必要な犠牲とでも言うのか?姉ちゃんは」
「ぎ、犠牲!?私は犠牲など「出してるから言ってるんですよ、ナルトは」
心底理解できないと怯えながらナルトに抗議しようとするその声に、ルークが横から言葉を遮るよう存在を持たせた声で丁寧に冷たく口を挟む。
「貴女はアクゼリュスに参る前に自らの手元に王女としてやらなければいけない仕事がいくつかありませんでしたか?」
「・・・それは・・・確かにございましたわ。ですがあの時は王女である私がアクゼリュスに参る事が1番だと思いましたので後にしようと置いておきましたが・・・それがなんなのですか?」
ルークの横入りの質問に不満げながら猪思考姫は疑問符つきで返すが、その答えのあまりの有り得なさにインゴベルトは雷に打たれたかのように苦しげな表情で冷汗か脂汗かをかいて止まりきる。
「わからないようでしたらお答えしましょう。それは」



「王女以外に出来ない仕事を放置し、人員的にも国の経済的にも見過ごせない被害を出した事です」



「・・・は?」
「この被害については陛下、お答えいただけますか?」
「・・・うむ」
やはりはっきり言わねばわからぬ様子の猪思考姫はキョトンとするが、この答えはインゴベルトに正直に答えてもらおうと痛い程の視線を送り強制的に肯定させる。
「・・・まずは経済的被害としてはナタリアが担当していた案件の仕事が、バチカルから消えた事で何日かほど滞ったな。被害総額にして数百万ガルドといった所だ、その中には現在国営の福祉施設で働く者達への労働賃金が遅れて払えなかった事で慰謝料を出さねばならなくなった分も含まれているがな」
「・・・え?」
だが猪思考姫の答えにもはや吹っ切れたのか、インゴベルトは話す内容も声も一切猪思考姫の事を一切考慮していない。
「滞った理由は責任者を別の者に任せる手続きを取っていたからだ。その他にもお前が担当していた公務を他の者に代わってもらい、皆忙しい合間を塗ってもらうことにした。それもこれもお前が勝手に先走ったせいだ、私達がお前が出て行った後どれだけ後始末をしてきたと思っている」
話している内容がもはや叱責ではなく怨恨にすりかわっているのではないか、どちらとも判断のつかせにくい徐々に荒くなっていく語気に流石に猪思考姫も表情が優れない。
「お、お父様・・・」
「私はお前を王女として意志の強い娘に育てて来たつもりであったが、甘やかしすぎて単なる傲慢なだけの人間にしてしまったようだ・・・だがお前を切る事はキムラスカの崩壊へと繋がる。政治に関われんのは当然の報いで最高の罰だ、異論は許されんし許される立場ではない。それでも異論を唱えるというのであれば私はお前を二人に差し出し、キムラスカの平穏を取らせてもらう」
「・・・っ・・・!」
撤回を求め縋るつもりだったのか差し出そうとしてきた手をインゴベルトは反論の余地もない弁を持って、力無く下げさせる。
だがこれほどインゴベルトが溺愛してきた娘を詰める事が出来るとは二人にも以外であった。せいぜい弁護はせずとも事実だけを言うくらい、そう思っていたからこそ予想外の王の自覚に少しどころか大いに楽しんでいた。



・・・だがまだ攻めの手は残っている、しかもそちらが本題である。二人はインゴベルトから話を引き継ぐタイミングを虎視眈々と狙おうと目を光らせる。







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