焔と渦巻く忍法帖 第十九話

(おーおー聞こえてきそうだぜ?歯軋りの音がよ)
近くで見なければわからないが少し頭を下げた煙デコの頬骨は張りを見せている。余程屈辱だと思っているのか、合図も無しにふと合わさった瞳に多大な怒りが込められていた。
(まぁもう逃げようもねぇんだから、好きなだけ怒っといていいぜ?)
怒りを煽るだけ煽る含んだわずかな笑みをルークは残すと、煙デコから視線を戻す。その後の事など知った事ではないとルークは素知らぬ顔で公爵の必死な延命の為の演説を聞いていた・・・






そして公爵の演説が終わった頃には全員が煙デコが‘ルーク・フォン・ファブレ’に戻る事を理解してもらえていた。正確に言えば夫人のみがルークが離れる事に難を示してはいたが、結局は公爵の熱のこもった弁でちゃんとファブレ保護下の元で暮らす事になるので大丈夫だと言い納得してもらった・・・むろんルークはそんな物受ける気は微塵もないので、上辺だけの体裁だと理解しながら公爵に同意しておいた。
「・・・さてルーク。話もついたので、お前は彼と一緒に陛下にこのことを報告に行きなさい」
「・・・はい」
公爵は話を終えた事で次にインゴベルトの所に行かせるべく、煙デコに安心したように命じる。不満はありこそすれ従わない訳にはいかない煙デコは暗く一つだけ頷く。
「それでは行きましょう、ルーク様」
「「「「・・・っ!?」」」」
そこにすかさずルークは屋敷内での不遜な口調を一新して、丁寧な口調で頭を下げる。その光景に屋敷でのルークしか知らない一同のざわめきが起こるが、誰もその光景に言葉を挟む事が出来ない。沈黙のままの煙デコが歩き出したのをきっかけにルークも煙デコの後を歩き、まるで従者のように付き従って庭を後にしていく・・・



‘ゴッ’
しかし押さえが効かなくなったのか屋敷内の人がいない通路に入った瞬間煙デコは右手でルークの首筋の袖を掴み、壁にルークの体ごと押し付ける。
「テメェ、俺を馬鹿にしやがって・・・なんで抵抗しねぇ・・・?」
「無礼があったというのは先程目が合った時の会釈がわりの笑みで理解しております、あれは私の不手際でした。罰を受けても致し方ないと思いましたので抵抗をしませんでした・・・ですがこれ以上やられるというのであれば全力で抵抗させていただくます」
「・・・ちっ・・・」
端から見たらどちらが優位かは煙デコであるが、事実は逆。振り上げかけた拳を情けなく仕舞う煙デコには見えているのではないか、壁に押し付けられたのに平静を保ったルークの背後から死神の鎌が。
しかしそれでも自分が優位だと態度で示そうとするのはより一層惨めさが増しているとは気付かないのだろうか。
「さぁ陛下の元へ行きましょうか?お待ちですよ、ナタリア殿下も・・・ナルトも」
「・・・わかった」
続いて掴まれていた右手も放された所でルークは先を促す。だが最後に付け加えられた名前に若干の間を空けた煙デコにルークは失笑しそうになりながら、先を歩き出した煙デコの後を追っていく・・・






城の中を歩いて行きインゴベルトの部屋の前へとたどり着いた二人。話を通してあった兵士は二人の姿を見るなりすぐさま室内のインゴベルトの元へ通してくれた。そこには顔色の悪いインゴベルトと一国王に手を伸ばせば届く位置にいる笑顔のナルト、そしてどこも見れずにただ気まずそうに視線をさ迷わせる目の下にクマを作った猪思考姫だった。
(んーやっぱまいってるよな、実は自分は偽の王女様だったなんて事実聞きゃな。けどな、偽者とかそんなもん関係ねぇよ。氏より育ちって言うけど王女が育つ環境で育ったのに王女たりえない程馬鹿な事やったんだ、もっぺん自己逃避するほど事実叩き込んでやんよ)
猪思考姫を視界に捉えたルークは改めて弱った獲物を更に追い込もうと考えを据える。厚顔無知なこの女の事、今のまま王女としての位置にいさせただけでは無駄に前向きになるかもしれない。徹底的に弱らせようとルークはナルトに一瞬鋭い視線を送り、互いにアイコンタクトを取る。








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