焔と渦巻く忍法帖 第十九話

『全部、全部お前が悪いんだ・・・』
『憎い・・・憎い・・・憎んでも憎みきれない・・・』
『お前が・・・全てを奪ったお前を・・・許せるはずがない・・・』
(いやぁ・・・いやぁ・・・何で、何で声が出ないのよ・・・叫びたい、泣きたい、謝りたいのに・・・なんでなのよ・・・)
自らに生えた手達から絶え間無く聞こえて来る怨嗟の声に、どんなことでもいいから盛大に声をあげれないことに気が狂いそうになる修頭胸。



今まで散々貴方にはわからないだとか関係ないだとか無駄な秘密主義でルークに感情のままをぶつけて来た。ならばこそナルトが与えた罰とは・・・それらとは全く逆の環境へと押し込む事だった。

人というのは度を越えた恐怖に反射的にごまかす行動を取る、その恐怖を少しでも和らげる為に。修頭胸も間違った軍人とはいえ一応人だ、恥も外聞もなく叫びたい所だろう。

だがそんな気休めは一切許される事はない、感情のままに叫ぶ事など許される事はない。心の中で叫んだ所で恐怖を少しも発散出来る事はない、修頭胸はルークにも誰にも自らの感情を押し隠さず馬鹿正直に出して来た。そんな忍耐とは程遠い修頭胸ではどうあっても恐怖を自己処理出来る事はないだろう。



「声をちゃんと聞いてくれているみたいだってばよね。よかったよかった」
(やめて・・・もう・・・)
どうあがいても逃げようのない状況においてナルトの声が怨嗟の声を止め、楽しそうに響く。既に神経までもが擦り切れるような体験に修頭胸は心からまいった様子で止めてくれと切に願う。
「じゃあ自分で蒔いた種はちゃんと刈り取ってもらうためにも、ってこの場合は無事に蒔いた種を育ててもらわないといけないってばね。だって姉ちゃんの蒔いた種で皆不幸って花が開いたんだから。だーかーらー・・・ちゃんと顔覚えて帰ってこいよ、それまではここにいてもらうから」
(・・・え・・・?)
・・・更に何かをするような話し方、何度目か知れぬ言いようのない不安を修頭胸はまいった頭で感じてしまう。



(・・・ヒッ!イヤァァァァァァァァァッ!?)
瞬間自らに手が生える恐怖を越える恐怖が再び修頭胸を襲った。そんな恐怖を越える物とは・・・その手がどんどん自らの体からどんどん腕・肘・肩とどんどん成長していくように姿を伸ばして行き、その中から更に上体と顔を現して行き・・・最後には下半身までもが姿を現しあげくの果てには足まで姿を現すと、修頭胸の体から抜け落ちるように離れていった。それが押し出して来たところてんのように、引っ切り無しに続いていく・・・何と言う光景だろうか・・・
しかも抜け落ちて来た人らしき者達はおもむろにゆらっと立ち上がり、修頭胸を怨みを込めた視線で見つめながら独り言をブツブツとはっきり聞こえる音量で放って来ている・・・
(イヤァッ!イヤァッ!イヤァッ!・・・もう、やめて・・・お願い・・・もうやめて・・・)
もし修頭胸が動けたなら耳をふさいで体を小さくして、どんなことでも悲鳴でもいいから叫んでいたことだろう。悪夢と呼ぶには相応しい光景・・・目を逸らす事も出来ない・・・
「自分の発言には責任持とうねー、姉ちゃん。謝りたいって言ったのは姉ちゃんだってば。今言われた事も出て来ている人達も全部、俺の影分身達が見て話して来た事実だから。これくらいの言葉を受け止めきれなきゃ謝るなんてこと出来ないってばよー」
しかしそれもこれも全て修頭胸自身が起こした事。同情の余地など・・・あるはずもない、何もわかろうとしていない愚者には。
「全員の言葉を受け止める事が出来なかったらもう一回全員の言葉を聞いてもらうってばよ、いや何度でもね・・・」
自らの意志で自らが過ちを認める以外にこの幻術を抜け出す方法はない。修頭胸ごときで幻術を跳ね飛ばす事など出来るはずがない、つまり修頭胸が認める早さでこの煉獄からの脱出がどうなるかがかかってくる。しかし修頭胸は都合の悪い物から目を背ける癖がついている・・・そう容易に求める答えに辿り着けるはずがないとナルトは考えていた。
と、修頭胸から生えて抜け落ちて来た人達の波が打ち止めたように無くなり最後の人が抜け落ちると、修頭胸も本来の人間の姿へと戻った。
「しばらくごゆっくり~♪俺は話に集中したいだろうから退出するってば」
自分がいれば自らに助けを求めるばかり、なら姿を消せば助けてくれるかもしれないというよりどころすら消えてしまう。
ナルトはそう考え笑顔と共にそこから姿を消した・・・そしてそこに残ったのは無防備な修頭胸と、被害者の姿のどんどん近づいて来る人達。
(近づいて来ないで・・・イヤァァァッ・・・!)
迫り来る人達の姿に心で拒否を示す・・・が、そんな物を聞き入れる被害者がいるはずもなかった。その姿はすぐに人波の中に消えていった・・・









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