焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「分かるか?この泣いてるおばさん、お前のせいで人生目茶苦茶にされたんだってばよ。旦那さんはもうわかるだろうけど、ファブレの屋敷で働いていた人だ。このおばさんの場合バチカルからケセドニアに職を求めて来たけど旦那さんは結局仕事をもらえず、旦那さんに自殺されて先立たれた人・・・だってばよ」
(そんなっ・・・!)
「辛かったんだろうな、自分の奥さんが働けない自分の為に必死に働く姿が。惨めだったんだろうな、自分の不手際で慣れない仕事を強要させてしまったことが。自殺したって聞いて相当まいってるとは思ってたけど、俺がここから立ち去るまでこのおばさんは俺の慰めの言葉なんて聞く事なく泣きつくしてたってば。それも全部・・・お前のせいだってば」
(・・・っ!)
鬼気と怒りをはらんだ容赦ないこの疲れた女性の身の上を明かすナルトの責める言葉に、反論の余地など全くなく修頭胸は心ですら何も言えない。
さめざめと泣く、泣き続けるその女性の姿は嘘などではありえない。実際ナルトがその目で見た物を幻術でそのまま現しているのだ、嘘ではない。
・・・だがここはあくまでナルトが作った幻術空間。修頭胸の内心など手に取るように分かるし、どれだけ追い込まれているかも分かる。



「だから・・・ちゃんと理解しとけってばよ。謝りに行くんなら、こんな人達がいたってのをなぁっ!」
(!?)
グラグラと陥落寸前の雰囲気になってきた修頭胸を心で殺すべく、ナルトは勢いよく声をあげる。言葉に出せず何が起こるのかと身構える事も出来ない修頭胸、すると・・・
‘ボゴッ’
(!?何!?)
いきなり自らの足元から何かが崩れるような、異様な音が聞こえて来た。驚く間もそれに浸る暇もなく、続いた体に訪れた異変に戦慄を覚えた。
(ヒッ!?・・・イヤッ!?)
両足首辺りにかかった生暖かい、人の手の感触。更に後ろから幾多もの人の手の感触が力強く、腕や肩に首筋などにかけられ修頭胸の恐怖を煽っていく。
そんな生殺しに等しい修頭胸の耳に、仄暗い声が届いてくる。
『・・・貴様が屋敷に侵入してこなければ俺はファブレの屋敷で公爵に夫人、ルーク様を今も護衛しているはずだったんだ。その俺が何故、物乞いのように仕事を探さねばならんのだ・・・』
『僕の父さんも公爵様の所からお前のせいで追い出されたんだ!・・・その後、父さんは僕たちの前からいなくなって・・・うっ、グスッ・・・』
『・・・貴方が屋敷に侵入してからあの人は変わったわ。普段飲まなかった酒を貯金の残額を省みず飲んで、ただでさえ苦しい経済状況が更に悪化してる・・・あの人を注意しようものならうるさいの一言と暴力が付いてくる・・・もう嫌なのよ、あの人が堕ちていく姿を見るのは・・・』
・・・三者三様、被害者のそれぞれの視点から話されるその中身はどれもが生々しく悲痛・・・その声が修頭胸に顔が見えない状態で届いてくる、その見えないという状況が怨みを持っている人達がどんな顔をしているのかを想像させてしまいより恐々とさせられる・・・
(・・・私は、私はこんな声を聞く為に兄さんを襲ったんじゃない・・・一体・・・一体私は何を間違えたの・・・?)
とうとうあまりの恐怖に自らの過ちを探そうと、半ば逃避の意味も含んだ考えに修頭胸は移行しようとする。
「何のんびり構えようとしてるんだってば。まだ何人もいるんだぞ?本人及び、その家族は」
(え・・・?)
その瞬間を見計らってナルトは不穏極まりない、不安しか感じれない言葉で意識を引き戻す。
その言葉に意識を向けた瞬間・・・修頭胸の体に壮絶な変化が起こった・・・






(!?イヤァァァァァァッ!!!?)
その変化は・・・体のいたる所から手が生え出し、その手から先程のような恨み言が比べ物にならないほど自らに向けられるという・・・まさに悪夢そのものの現象と言える物だった。








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