焔と渦巻く忍法帖 第十九話

ナルトの手元が凄まじく早過ぎて見えない程動く。だがそれも一瞬で終わる、と同時に修頭胸の錯乱した顔がどこも見ていない虚ろな物へ変わる。
「・・・・・・一体何事だ?」
傍目から見ていて何が起きたのか確認出来なかった公爵が小さく声を上げる。
「なぁに、ちょっと幻を見てもらってるだけだってばよ。罪悪感を最大限に理解してもらうよう、現実って名の地獄を・・・」
「・・・!」
ナルトが浮かべた血生臭い凶笑、そして不穏な言葉。自分に向けられてはいないが公爵は戦慄を隠せなかった。幻すら見せる事が出来るのかと、一体修頭胸に何を見せているのかと・・・






「・・・え・・・ここはどこ・・・?私はファブレ公爵の屋敷にいたはずじゃ・・・?」
視界が暗く一転した修頭胸が明るくなった視界で目にしたのはつい今までいたはずの屋敷とは全く違う、砂っぽい風の舞う街の一角・・・修頭胸が冷静な状態であればケセドニアと気付けたであろうが、先程からのやり取りで普通とは程遠い精神状態へと化しているのだから気付けるよしもない。
「・・・え・・・あれは、ナルト・・・?・・・えっ、こっちに来た・・・って無視した・・・何なの・・・?」
そんな修頭胸の視界にナルトが小走りで入って来るが、ナルトはその横を何も言わず通り過ぎる。どういった意図なのか理解出来ずナルトの姿を視線で追う。
「・・・えっ?扉・・・?」
その先にあったのは自らのすぐ後ろにあった家屋の扉、そこの前にナルトは立つとおもむろにノックをする。
「・・・はい、どなたでしょうか?」
ノックから多少間を空けて扉を開けたのは貧乏と一目で思えるようなよれよれの服を着て、疲れ切った顔の女性だった。
(・・・なんなのよ、いった・・・!?声が・・・っ!?)
異様なこの空間に修頭胸は大声を出そうとしたが途端に声が出なくなり、体を動かそうとする。
(体が・・・!動かない・・・っ!?)
今度は金縛りにあったように首一つ振る事も出来ない・・・すなわち身を震わせる事も出来ない、そんな事実を修頭胸は考える暇もないまま目の前にあるナルトと疲れた女性のやり取りを目撃せねばならない。その沈黙の強要が心の壊滅を増進させると知らぬまま。



「誰、君・・・?私は忙しいの、用がないなら帰って・・・」
ナルトを見るなり、力無く邪魔だと露骨に態度に見せる女性。その言葉だけ出し女性は問答無用に扉を閉めようとするが、ナルトはすかさず声を出す。
「ファブレの使いで来た者だってば」
「えっ・・・?」
ファブレの単語に期待と不安、二つ入り混じった戸惑いの声で女性は閉まりかけた扉を止める。
「正確にはファブレ公爵の子息のルーク様からの使いだけど」
「・・・ルーク様から・・・そうですか・・・どのようなお言葉を・・・?」
ルーク、その単語に不安を強めたのか覚悟を決めたように女性は扉を開く。悲壮感の漂うその姿に、ナルトは重さを感じれるズシッとした重量感ある袋を取り出し女性の前に差し出す。
「『こたびの事は誠に遺憾な事だった。確かに私を守れなかった、この事実は覆しようはない。だがあまりにも諸君らの境遇に不遇を感じてやまなかった。故に私個人の使いに慰安の言葉と退職金を届けさせた・・・今までご苦労だった、そしてこれよりの人生への足しにしてほしい」・・・これがルーク様からのお言葉と、退職金だってば」
そう言い切りナルトはお金が入った袋を手渡す。
「・・・こんな・・・こんな・・・っ!」
受け取った女性は少し間を空けぼっそりと呟くと、二言目に袋で涙を押し付けるように顔をつけ声を押し殺す。
「・・・心中お察しするってば。こんなお金をもらってもおばさんの旦那さんはもう帰って来る事はないから、辛いんだってばよね?だって・・・コイツのせいで働けなくなって自殺まで追い込まれたんだからなぁっ!」
(!?)
女性を慰めるように優しげな声をかけていたナルトは一気に、鬼気をまとったようなぎらついた顔で修頭胸へ顔を向ける。だが表情を変える事も声を出す事も出来ない修頭胸は、ただ心の中で驚くばかりだった。






14/35ページ
スキ