焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「俺が来たから?へぇ、んな訳ないだろ。元々制止を振り切って迷いなく、俺じゃないルーク様を刺せなかったお前にはどうあがいたって復讐なんか遂げられるはずもねぇよ」
「・・・どういう事だよ!?」
意味深で罵倒も混じった話し方に、フェミ男スパッツは反感を持って言えよと語気を荒くする。



「だってお前、ヴァンって髭親父に度々殺そうとしてはまだ時期じゃないって止められてただろ。ファブレへの復讐を口にしては」



「っ!?・・・な、なんでそれを・・・!?」
推測だが、確信を得ていたルークの声にフェミ男スパッツは明らかに勢いを削がれ動揺を表す。
「まぁもう分かっちゃいるけど一応確認するぞ、ペール。ヴァンって髭はガルディオスの関係者だな?」
「は、はい・・・確かにそうですが・・・」
また驚くご老体、それもそうだろう。ガルディオスという名と身分はたった今話されたもの、そこにいきなりパッと結び付けられるとは思っていなかったはずだ。
「詳しい詳細はここは関係ねぇから聞かねぇ。でもまぁ親密だってのは使用人と謡将にしては内密に、時折近い話し合いを何回もしてたからなんかあるなとはすぐにわかってた・・・だからそれを踏まえて考えてみた。髭からすれば必要なのは預言を騙して秘密裏でルーク様を手に入れる事が目的、しかしファブレにはそんな貴重なルーク様を殺そうとしているガルディオスの遺児がいる。絶対にルーク様を殺されたくはない・・・そう考えた髭親父は自らが来る度ファブレ滅亡を話して来る遺児にまだ時期ではない、もう少し待たれよとそう言っていた。俺はそう考えたんだよ」
「・・・っ!」
陶酔は酔う為の何かがあってこそ成り立つ、自らの行動が誰かに酔うように操られていたのか。そう理解を始めたフェミ男スパッツは何かの悪夢から醒めたよう、顔面にある全ての穴が開く。



そして・・・心を殺す為、ルークは最後に畳み掛ける。
「でだ、髭親父に話をするにあたる理由としては外部からの協力者が必要不可欠だったからだ。内での協力者はペール、外からの協力者は髭親父。まぁ信頼してたんだろうな、遺児はどっちも。だからこそ外の協力者が時期を見ないとと言った時は慎重になっていた・・・けどそれこそが幼い遺児にルーク様を殺す手を躊躇わせる一手となり、必要な人材を殺させない手となった・・・そして時は流れてとうとうルーク様はかどわかされ、俺って偽者が屋敷に来た。そこまでで殺せなかったお前は結局、刺し違えてでも復讐を果たしてやるなんて事も出来ないヘタレ糞馬鹿のどっちつかずだ。それにあまつさえ自らの気持ちを信頼していた髭親父に左右されてたんだ、つまりファブレに復讐出来なかったのは俺のおかげなんかじゃねぇ。ただ流されてたからってだけのことでしかねぇんだよ」
「・・・そ、そんな・・・俺・・・は・・・」
・・・全てを聞き終わり、茫然自失としたように虚ろな目で膝をついたフェミ男スパッツは何か小さく呟いている。余程の衝撃だったのか、ルークにすらとぎれとぎれにしかその音は拾えない。



ただ振り回されていただけ、そしていいように心を操作されていた。更には復讐という自らと同じ目的を持った人間からのまさかの裏切り・・・
だからこそ甘いと言えた、酔ってると言えた。身内を信じすぎ、そのあげくに復讐という自らの中の大義を復讐相手に達成したくないと考えて悩むその心根が。しかしそんなものは裏を返せばなんのことでもない、ただ仕組まれただけの感情なのだから。外ならない協力者という裏切り者によって・・・



背信、そしてようやく気付かされた自らの愚行と愚考。ガルディオスとやらの再興を見越して完璧な計画を練っていたというのは言い訳にもならない、結局主が行動に移せなかった事が事実なのだ。

全て流れに呑まれたまま動かされただけと気付かされたフェミ男スパッツはもはや、何も言えるものでもなかった・・・





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