焔と渦巻く忍法帖 第十九話

「・・・さて、俺の言った行動を取った時のペナルティを取り付けたところでもう一つ質問だ」
そんな予感を確信に近い状態で持っていると、ルークは事実を明らかにするため更に口を開く。
「恨みを抱くに到った理由ってなんだ?答えろよ」
もはや命令になっているそれ、断りを入れる事など出来ない。
・・・言葉にこもった響きにフェミ男スパッツは唇を噛んで下を向き、観念したように話し出す。
「・・・俺は元々、マルクトの貴族だった」
過去形、出だしに来たその表現にルークは確信だと思いながら黙って話を続けさせる。
「十五年前にマルクトとキムラスカで大きな戦争が起こった、後に言うホド戦争。俺の家はホドというマルクト領の島を納める、ガルディオスという貴族だった。そこでガルディオスはキムラスカのファブレ公爵に攻め入られ、俺を除いて全員殺されたんだ・・・」
「・・・ほーう・・・」
一族の無念を語り晴れない怒りを込めた語り口、そんな話にルークは無関心に相槌をうつ。
「そこで俺はファブレに復讐するためにこの家に使用人として入り込んだ・・・」
「・・・で、ペールはガルディオスとやらの一族に仕えていた人間ってところか?主のガイに付き従う為に一緒にファブレに潜入したんだな?」
「はい、おっしゃる通りです・・・」
一族は自分を除き、その言葉に従って考えるなら側付きの生き残りの人間くらいに有り得ない。確認を取ると、ペールは予想通り暗い面持ちで返す。
大体の流れは全てわかった、語り終えどこか縋る目を見せるフェミ男スパッツにルークが放った一言は辛辣だった。



「あほらしっ」



悲劇を明かし同情をさらえる自らの哀れな経験、それがあっさりと否定された。途端に信じられないと目を見開くフェミ男スパッツに、ルークはあっさりと話し出す。
「恨みを持ってた訳じゃん、殺そうと思ってた訳じゃん、公爵を。それ十歳にもならない時に決心した訳じゃん、俺を殺そうとしてたじゃん。つまり殺そうって思ってた時には公爵も夫人も働いていた人達も一まとめに殺そうとした訳だろ?それを子供一人殺すのをためらってるのに、なんで恨んでいます今もなんて偉そうに悲劇っぽく話せるんだ?ホントに恨んでいるなら今ファブレはキムラスカから消えてるんじゃねーのか、お前の手で」
「そっ!それは・・・」
「そこがはっきり言って中途半端なんだよ、お前は。話を聞いてたら復讐とその葛藤の間に揺れていますってな感じで話してるけど、俺から見たらその立場に酔ってるようにしか見えねぇよ」
「!?」
陶酔、はっきり言えばそれだ。フェミ男スパッツは愕然とする。



確かに復讐という目的はファブレ邸に潜り込んだ事から達成させようとしているのはわかる。だが度々夜襲に来ては戻り、修頭胸が屋敷襲撃に来る少し前にはほとんど夜襲自体もなくなっていた。
復讐というのは正しい正しくないは倫理感・感情論などで他人が判断することではない、どれだけ本人が行動に起こせるのかという自分の本能に従った物だ。本能に従うという点では、まだサスケは純粋に本能を立てている。

しかしサスケと比べてみてもフェミ男スパッツの目や声には暗い感情は感じられない、先程の自分の半生を語るそれにはサスケの半分も感じれなかったものだ。あまつさえ悲劇を悲劇調に語るというのは、もはや復讐を自分を綺麗に見せる手段としているようにしてしまっている。

一つの感情で想いを遂げようとせず、戸惑いの中でルークを蔑みながら自分は対等以上の位置にいるという優越感に浸り行動を起こしはしなかった。陶酔と呼ばれても全くおかしくないそれ・・・



「違う!俺は自分の立場に酔ってなんかいない!」
しかし尚フェミ男スパッツは反論を持って返す。
「確かに俺はファブレを滅ぼせなかった・・・けどそれはお前がこの屋敷に来たからなんだ!以前のルークは貴族そのままのファブレの後を継ぐ貴族の子供だった!けどお前はそんなファブレを感じさせないただの子供だった。お前が屋敷に来てから俺は復讐に目を向けるだけでいいのか・・・そう思えるようになったんだ・・・」
だからお前は酔っている、ルークはその話を聞いて内心馬鹿らしかった。結局勝手に殺すのを思い止まっているのに、踏み止まれるようになったのはお前のおかげなんだと上からの視線を崩さない。



そろそろ酔いを覚まさせてやろうとルークはうなだれるフェミ男スパッツを見る、結局お前も手の平の上で弄ばれるただの猿のような物だったと考えながら・・・









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