焔と渦巻く忍法帖 第十九話

そして扉を閉めた先にいたルークは不敵な笑みを浮かべ、その足で屋敷のある所ヘと向かう。



ルークが煙デコとファブレ公爵と共に屋敷に入ったのはつい先程にあたる。その時屋敷から出迎えて来たのは執事のラムダスと数人程の兵士だった。

案の定ルークの顔と煙デコの顔を見合わせたラムダス達は驚いていたが、事情は明朝説明すると言った。そう言われたラムダス達からの怪訝な視線を受ける中、ルークは煙デコには元々の部屋を使うよう丁寧な臣下の礼を持って自ら案内するよう煙デコとともにその場を後にした。これでルークは煙デコを最終的に『本物のルーク・フォン・ファブレ』ヘと戻す為の伏線を張った・・・



そしてルークが周りの兵士やメイド達の目をかい潜って、向かった先は不安要素でもありルークが最大級に嫌悪する存在である。
その部屋の前にたどり着くと、ルークはノックもせずにガバリと扉を開ける。
「よう。まだ起きてるな?」
「・・・!ル、朱炎・・・」
朗らかに笑顔で入った部屋はフェミ男スパッツの部屋、当の本人はいきなりのルーク来訪でベッドからルークと言いかけそれを直しながら立ち上がる。
「ルーク様・・・何故私どもの部屋になど・・・」
「ペール、もう俺にかしこまる必要なんてねぇよ。俺はもうファブレの子じゃねぇんだから」
「・・・?」
続いてフェミ男スパッツの部屋の同居人、庭師のペールが恐々といった様子でルークに話しかけてくる。その態度としては使用人には当然の様子に、ルークはなんでもないようにファブレではないと言い放ち、ペールはそんな様子に眉間にシワを寄せる。
「朱炎・・・お前、何しに来たんだ・・・?」
ペールがそんなになっている中、フェミ男スパッツは微妙に歪んだ顔で疑問を口にする。
「別にたいしたことじゃねぇよ。ちょっと話しに来ただけだから」
「話・・・か?」
「あぁ。無事にこうやってガイが使用人生活に戻れた事だしな。それで一つ言わせてもらおうかと」
「?」
なんのことかと、全く心当たりのないようにペールと似たような表情になるフェミ男スパッツ。



「本物が戻って来たからってアイツ殺そうとするなよ?まぁ公爵も狙いなのかどうかは知らないけど、誰かこの家の人間が殺されたってんなら遠慮なくキムラスカもマルクトもダアトもしらみ潰しに探してテメェとテメェを匿った組織をぶっ潰すからな」



・・・だからこそ衝撃の宣告をされたフェミ男スパッツ、そしてペールの顔は瞬時に驚愕へと化した。
「気付いてない、とでも思ったのか?あんな未熟な暗殺未遂俺が見過ごすはずねーだろ。今考えてみて、おかしいって思わなかったか?」
「・・・っ!」
ルークの言に瞬時にはっと顔を青くするフェミ男スパッツ。あれだけ強く、気配に聡いルークが自分よりも遥かに実力が下の相手に気付かないはずがない。そう結論に到ったのだろう、フェミ男スパッツは。そんな様子のフェミ男スパッツを尻目に、ペールはたまらず口を出す。
「・・・気付いておられた、というのですか・・・ルーク様・・・」
どこか諦めを滲ませ、観念したようにペールは目を伏せる。
そもそもこんな話をフェミ男スパッツ単品にではなく、ペールも交えているのはフェミ男スパッツとの表向き以外の裏の繋がりもあると確信しているからだ。その確信の元はフェミ男スパッツと老け髭が秘密の会話をしている最中、ペールが辺りをくまなく見渡し誰かが来た瞬間すぐさま当たり障りのない声を出す事でさりげなしに注意を促す場面をルークは何回も目にしていた。更にはその視線の静かさも素人のそれではない、ある程度鍛練を詰んでいる人間にしか出ない物がその老体から滲んでいた。
そうとでも確信をしていなければ老い先短いご老体をこんな場には同席させはしない、確信を持ったルークの声にペールも全てを明らかにした。
「・・・朱炎、いやルーク。ならなんでお前はそれを公爵に話さなかったんだよ・・・?」
フェミ男スパッツは朱炎からルークと改めて言いかえ、ルークにその行為をばらさなかった事の訳を問う。しかしその名前を気安く本名で言うという行為を意識して行う事に、ルークの表情は一変した。









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