焔と渦巻く忍法帖 第十九話

国の王、インゴベルト隷従確定・・・ルーク達がバチカルを落として数日が経った。






「んーっ、大体終わったなぁ。兵士の人達も無事に元の配置に戻れたし、謁見の間に居合わせた兵士の口止めも終わらせた。グランコクマにも遣いの影分身兵士送ったし、これで和平を成功させた・・・っと」
城の中の一室で椅子から立ち上がり、気持ち良さげに伸びをするルーク。



ここ数日、ルークは事後対応に追われていた。

まず兵士達を無事元に戻せるよう、陰謀の見える死に方を誰か一人でもしたら九尾を放つとインゴベルトを脅して元の配置に着かせた。

謁見の間に居合わせた兵士の人達は幻術をかけて記憶を封印することも考えていたが、義侠心に目覚めた兵士達はいざとなったら命に代えてでも陛下を止める次第と迷いなく言ってくれた為一応心の中に納める事が出来なかった場合は国が滅びる覚悟をするようにと勧告だけに留めておいた。



グランコクマに成功だと送った影分身兵士もこの数日で到着したと先程報告が入った。
「さってっとー♪次はあいつら呼び出してやっか♪次行かなきゃなんねーし、喜んでくれっかなー?」
兵士の配置の手続き上どうしても出る瑣末な問題もルークが監修を務める事により、たいした問題もなく終える事が出来た。全て片付け終えたと伝えた時の兵士達の感謝の声と、これから行く所の実情を想像し、二つを同時に思い浮かべたルークの醸し出す雰囲気は嬉々以外ない。その雰囲気を最後まで残したまま、ルークはその部屋を一瞬で後にした・・・










・・・それは数日前のインゴベルト達を陥落した後のバチカルでの出来事だった。



「自分の家に戻られた感想はいかがですか?ルーク様?」
「・・・クッ・・・」
自らにあてがわれたオリジナルルーク様、別名煙デコの本来の部屋。押し込むように煙デコをファブレ邸に入れたルークは、同じように煙デコをその部屋に自らと二人きりの状態に持って行った。
月明かりは部屋の中を窓を通して淡く照らし、入口側にいるルークは月光の光を受け闇に映える美しい笑みを浮かべている。煙デコはそんなルークに不機嫌そうに口をつぐみ、返答を明らかにしない。
「・・・いえ、失礼しました。自ら戻られたこの場所に不満などあるわけはないのでしょうから。このような愚問を口にした事、私の不手際でございます」
そんな不機嫌さを見せる煙デコにルークは謝っているようで謝っていない、丁寧な言葉を口にして更に笑みを深める。それは当然だ、機嫌を損ねさせるような事はルークは一切していない。煙デコが勝手に勘違いと逆恨みをルークに抱いてここに戻って来なかっただけで、ルークはありもしない架空のレプリカルークにオリジナルの罪を押し付け表向きは哀れな被害者にしたのだ。普通感謝こそされど、逆恨みをされる事では全くない。故にルークはわざとらしく、嬉しくないはずがないと言ったのだ。
「テメェ・・・そのムカつく言葉遣いを止めろ・・・」
そんなルークに何をいらついたのか、また無駄な虚勢の強い語気の言葉をぶつけてくる。
「今更何を。ファブレに戻られると決断されたのは貴方だ。そしてファブレの名を降ろした今の私はただの一市民程度の権限しかなく、身分の差は明白。敬い言葉を選ぶのは当然の事・・・それとも私がかしずくという行為自体が気にいられないとでもおっしゃると?」
「テメェがそうやって俺を馬鹿にしやがるっ・・・!?」
あくまでルークは丁寧な言葉で返したがその表情からは笑みが消えた。そんなルークの態度に大声で煙デコは罵声を浴びせようとしたが、途端に手で口をふさがれベッドにルークに押し倒される。そして馬乗りにされた煙デコが見た物は、自らと同じである顔の闇を込めた死を思わせる瞳だった。
「今宵は先約があります。これ以上時間を取らせるのであれば眠っていただきますよ・・・折角帰って来た悲劇の子供が永眠と周りが悲しみに伏せるよう・・・ね」
「・・・!」
煙デコがその意味を理解するかどうか刹那の瞬間、ルークはベッドから飛びのき、宙返りをしながら体をひねって着地してドアの前に立つ。そしてノブに手をかけながら振り向く事なく一言残した。
「お休みなさいませ、ルーク様」
そしてドアが開けられ振り向く事もなく扉の向こうにルークが消えた。その光景を見て月光に映った煙デコの顔は、恐怖に染まりかけ情けなく耐えるどうとも言えないものだった。









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