焔と渦巻く忍法帖 第十八話

この生首及び、首の断面から出る血を噴水として文字通り体言している惑星屑の胴体。戦場ですら膝をついたまま死体になるような人間はいない、異形の死に様は経験値の無いものには恐怖以外ありえない。
もはやこれ以上の殺され方は存在しないのではないか?そう思っていたインゴベルト達の考えに、ルークが高らかに声を上げる。
「さぁ皆さん、我々の命を弄び、預言を用いてキムラスカを操らんとした大詠師は死にました!今こそ預言に見捨てられた者達の無念も併せ、想いを刃に乗せてください!」
「「「「はっ!」」」」
「「!?」」
声を上げて一斉に剣を抜き、前に走り出ていく兵士達。その瞬間、次は自分だと感じたインゴベルト・ファブレ公爵は身を引き顔を引き攣らせる。
・・・だが兵士達は両名に向かわず、ナルトが横にどいた惑星屑の死体の周りを取り囲んだ。
「・・・まっ、まさか・・・!」
自分達に来るかと思えば惑星屑、その兵士達の取った行動が何なのかを戦場に立った経験のある公爵は理解したのだろう。より一層表情に陰りが出た。
「我々の怨み、そして虐げられし者達の怨み!身を持って味わえ!」
兵士の代表者が怒りを持って放った声を受け、周りの兵士達は示し合わせたかのように同時に剣を抱え上げる・・・そして同時に兵士達は剣を振り下ろしていった。






・・・これほど形容に難い音というのは他に追随を現せないだろう、剣が肉を貫く音が何十秒も絶え間無く続きその音は寧ろ激しさを増していく。兵士に囲まれている為に同行者達にはどのように変わり果てた姿になっているのかは見えないが、音だけで死体の有様を想像できてしまうために姿を思い浮かべたイオンと女性陣は耳を押さえて震えて目を背け、男性陣は表向きは真顔だがうっすら血の巡りを止めているのではと言える程握りこぶしを強くしている。

だがそれ以上に顕著な変化を見せているのは両名に外ならない。もはや痙攣しているのではと全身椅子ごとガタガタ震えているインゴベルトに、たまらずそのインゴベルトの座る椅子の隣にまで来て力無く寄りそう小動物を思わせる程背を丸めたファブレ公爵だ。



・・・死体に鞭を打つ、とあるがそこまでする訳は大幅に分けて二つある。一つは対外的に大きく何かをアピールするため、もう一つは単純に殺しても殺したりないほど殺意が溢れていた為。
後者は殺されかけた兵士からしてみればすぐに条件を満たす程の殺意を感じる事が出来る為ルーク達からすればさして問題はなかった。問題は前者、いくら怨みがあるとはいえ死体を蹂躙するという事はキムラスカを変えると義侠心も合わせ持ってルークに従っていた兵士達も二の足を踏んでいただろう。だからこそルーク達はこう兵士達に言ったのだ。

‘不退転の覚悟を示し、預言を排する気持ちをより強める為に大詠師を殺したならば死体に決意を持って剣を突き立てて下さい。出来ぬならばバチカルには入らず、タルタロスにて我々の成功を待たれていても構いません。生半可な気持ちで預言を排するなど出来ませんので血に濡れる覚悟なき方は来られぬよう’

・・・ここまで言われ義侠心に火がつき、怨みを持ち合わせている相手に雪辱を果たす機会を見逃す者は兵士にはいなかった。世界へ預言を排する為の宣言を兼ねた儀式と、どうしても晴らしたい負の感情を洗い落とす絶好の儀式。一挙両得とも言えるこの機会を見逃す訳もなく、兵士達は決断に迷う事なく剣を振り下ろす事を選んだ。






・・・ようやく一通り剣に突き立てる事を止めたのか、兵士達の動きは収まりを見せる。しかしその死体を見たくは・・・想像だけで毒をもたらす有様だが、しかし毒を白日に晒すべくルークは命じる。
「皆さん、下がってください」
「はっ」
作業を終えた兵士を労るように声を出すルークであるが、息を呑む音がそこらから溢れ出てくる。その命に兵士達は返事を返すとすぐさま惑星屑の死体の周りから引き下がる。
・・・そして姿を現わした、元人間の胴体は原型すら留めてはいなかった。両手両足の四肢は胴体から切り離され細切れにされていて、辛うじて胴体と呼べる部分にすら剣によって至る所に空けられた風穴から出た血で単なるボロ布切れをまとった肉塊としか呼べない程に変わり果てている。
「うっ・・・!」
ここまで壮絶にバラバラにされた死体など見る機会あるものではない、インゴベルトはたまらず口を押さえ吐く事を耐える。



・・・さぁこれでアピールは終えた。わざわざ兵士達の心を誘導して死体を切り刻ませ、ここまで無惨極まりない死を遂げてしまうかもしれないと強烈に印象をつけるための時間は。







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