焔と渦巻く忍法帖 第十八話

「陛下。もはや聞く耳など持ってはいけませんぞ」
前に出た猪思考姫に対抗するように惑星屑が語気を荒くし、敵意をぶつけてくる。



「所詮この女は陛下の実子ではないのですから」



「「「「!?」」」」
だが今この瞬間において最大の衝撃が走る言葉が出て来た事に、ルークまでもが驚きに目を見開く。同行者達はそれ以上に愕然とし、当の本人は何を言われたのかを理解出来ずにパクパクと口を開き小さい声を出す。
「な、何を・・・そのような・・・嘘を・・・」
弱いが確かな訴えのその声に、惑星屑は更に勢いづく。
「嘘などではない!本物のナタリア様は死産だった。そこで同じ頃産まれたおまえをナタリア王女の代わりとして、今までキムラスカは育てて来たのだ!」
「そ・・・そんな・・・お父様、お父様はそのような事、信じませんわよね・・・?」
縋るような視線でインゴベルトに否定を求める猪思考姫。しかし予期せぬ衝撃から落ち着いたルーク達は出て来るであろう言葉は既に分かっていた。
「・・・わしとて信じとうはなかった!しかし当時の世話役からの証言を受け、言われた場所を掘り返したらあったのだ!ナタリアの物と思われた遺骨が・・・」
「っ!・・・そんな・・・」
苦痛のインゴベルトの叫びに、猪思考姫の顔が一気に青ざめ口元を覆うように手を置く。しかしその証言にルークはまた歪んだ預言の実態を知って、有り得無さにある意味で脱帽していた。



(まぁそりゃそうだよな。赤と黒の髪の組み合わせから金髪の子供は生まれねぇし。隔世遺伝って可能性も否定出来なかったから猪思考姫も王室にいられたんだろうし)
例えば肌の色が地黒の男がいたとしよう。当然親も地黒の肌を持つかと思えばそうではない、両親共に白い肌の人間だ。なら何故その子供は肌が黒いのか?・・・それは男の祖父母に当たる人間が地黒の人間で、色黒になる遺伝子を親を越えて孫の代で発現させたからだ。
このように世代を超え遺伝子を受け継いだ事例は少なくない、故に猪思考姫は歴代の王族の誰かの髪を隔世遺伝として受け継いだと思われていたのだろう。でなければ赤い髪を王族の証とするキムラスカがその存在を易々と認めるはずがない。実際にそういった前例があったから疑問も持たずに王女を安穏と続けていたはずだ、猪思考姫は。
だがそこでまた問題になる発言が一つ。
(なんで惑星屑は知ってて当の親はしらねぇ)
疑問の声が出ているとはいえ既に答えは出ている。それを白日の元に晒そうとルークは重く、口を開く。



「ナタリア王女と死産したナタリア王女、入れ換えた事実を貴方は陛下より先に知られていたようですね?二人の会話の流れから陛下はつい先日知られたように思えました。そこで私はある考えに行き着きました。入れ換えたという行動すらもしや・・・預言ではないのかと」
「なっ・・・!?」
預言、その言葉に惑星屑ははっきりまた動揺をあらわに見せる。
「図星のようですね。でなければルーク様と導師以外とナタリア王女を含まなかった事にも説明がつく。恐らく子供が死産の命運だったと預言にあったと言われ、身代わりの子供を育てなければいけないと陛下に知られていたなら王族でないナタリア王女を王女として育てる可能性が低くなる。そう考え王女としての預言に沿わせる為に、陛下にすら事実を知らせずキムラスカを欺いたのでしょうね。だがナタリア王女は親善大使一行に陛下の意向を振り切ってこちらに来てしまった。故に陛下にこうでも言ったのではないのですか?‘所詮は王族の血を引かぬ者、偽者の王女には退場していただこう’と」
「・・・っ!」
後半は確実に猪思考姫に聞こえるよう、大きくはっきりした声で述べていく。人を偽者呼ばわりしたわりにそう扱われた瞬間、よくもそう身を震わせる事が出来るなと内心楽しくてしょうがないルーク。



だがここで明らかにしていないが、預言を隠していたことには更に裏があるのもルークは感じている。

それはキムラスカに対し優位性を作る為の物だ。もちろん預言だからそのまま大人しくしていれば猪思考姫を王女に置いておく気はあったのだろう。だがそのままキムラスカに猪思考姫を置いていたとしても、惑星屑がおめおめとその状況を放っておくはずがない。

・・・もしそんな状況でダアトに害を成すような行動をキムラスカが取っていたなら、事実をちらつかせこう脅しただろう。ばらしますよ、その一言でもうキムラスカは揺れに揺れるだろう。何せ王女が偽者で王族の血を引いていないのだ、髪の色一つ攻められたらそれこそ遺伝に詳しくない大衆は不満を現すだろう。

・・・宗教に弱みを握られる事の怖さは程知れない、ましてや相手はローレライ教団だ。世界に事実をばらまくのもそう難しい事ではない。キムラスカはいずれダアトに食い物にされていただろうとルークは考えていた。








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