焔と渦巻く忍法帖 第十八話

遠く見えたキムラスカの首都バチカル。海岸線に悠然と姿を現したその光景に、タルタロスは近くの海岸線から大地に乗り上げてその動きを停止させる。






「よーっしゃっ!んじゃ歩いてバチカルまで行くぜ?」
けして否定をさせない意思を持った問いかけ、ルークから出された楽しそうな声に、また修頭胸が胡散臭い物を見る視線で声を上げる。
「なんでタルタロスで港に直接入港しないの?手間がかかるのは誰にでもわかることよ」
「お前は港に着いた瞬間タルタロスを見て集まって来たキムラスカ軍と鉢会いたいのか?マルクトから何の連絡もなくタルタロスが来たら、何かしらの事が起きたって感じ取った惑星屑辺りが迎撃の軍を差し向ける可能性がたけーんだ。敵は水際で止めるべきだと砲撃をされてもおかしくないし、その砲撃を切り抜けて上陸してもこんな人数を物ともしないキムラスカ兵との対峙だ。そうなったら向こうのペースになんだよ、俺達は対話しにきたんだからな。それとも、お前は腕づくで惑星屑を含んだキムラスカ軍を倒しに来たのか?」
「・・・違うわ」
人の行動は何かしらの考えがある、短慮深慮関係なく。直線で目先の獲物にしか食いつく事を考えれない短慮な修頭胸にはさぞかし回りくどい事だろう、ルークの考えは。だが回りくどいとなにより考えているのはルークで、考えを最後まで聞かせねば反目を止めない反骨心を未だ持っている事。これはなによりの手間だ・・・もっともこの女には生きる屍にこの地でなっていただこうと、ルークは考えているわけだが。
「それに俺らがあいつらの鼻を公にへし折るには向こうに全く準備の時間を与えないのがいいんだよ。謁見の間まで俺らが来たって情報が伝わらなければ俺らが陛下に首を縦に振らせてやれるからな」
なんのことだ?意味を理解できずにいる自称正論者達の目がルークに集中すると、途端にルークはすさまじい早さで印を組む。印を組み終わりルークの周りに白い煙と共に出て来たのは十数人程の一般人に扮した影分身達。しかしその影分身達も現れすぐにその場から姿を消す。
「・・・おい朱炎、今のは・・・?」
「気にするな、裏方だ。バチカルの様子を知らせる為に出した」
いきなり姿を現し姿を消した影分身達に疑問を隠せないフェミ男スパッツの質問に、簡潔に返す。
「もういいだろ。これ以上問答しても時間が無駄に経つだけだし。行くぞ」
ここでルークは話の流れを意図的に絶つ。雰囲気にただならぬ力を感じさせられた一同は一気に黙り、コクりと頷いて返してしまう。その返答にルークはブリッジから出るべく扉へと鋭い眼差しを向けて歩きだす。有無を言わさぬ態度に何も言えない自称正論者達はルークの後ろにすごすごと付いていく。



・・・タルタロスから出ようとするルーク達、そのタルタロスの中でまた別の動きがあることを自称正論者達は知らない・・・










少し時間こそかかれど、地味にという目的自体は達成しながらルーク達はバチカルの街中に入る事が出来た。そして悠々とバチカルの最上層に立ち入ると、そのままの足で城の前にいる兵士の元へ行く。城門の前にいた兵士達はルーク達が視界に入った瞬間、慌ただしく動揺する。
「ルーク様が戻られた!?報告は受けていないぞ!お前は聞いていたか!?」
「いや、俺は聞いていないが・・・」
動揺から声を抑え切れていない会話はルーク達に筒抜けだ。それもそうだろう、王族が帰還などという状況で出迎えをしないというのは兵士としての役割を放棄しているのも同然だ。連絡の不備を疑う兵士達の声にルークは優しい声色で会話に加わる。
「連絡が行き届いていないのは私が陛下に帰還の報告をしていないからです、気にする事はありません」
「ルーク様が・・・?」
安堵の反面どうしてと問うような声、だがルークは報告をしなかった理由を説明する気はない。
「陛下は謁見の間におられますか?帰還の報告に参らせていただこうと思っているのですが・・・」
「はっ、謁見の間におられますがファブレ公爵と大詠師の二方も中におられます」
詳しい訳を自ら聞けるはずもない兵士はルークの質問に気持ちを切り替え敬礼付きで即座に返す、二人の名を付け足していることを忠告して。
「・・・そうですか。では報告に行きますので、通らせていただきます」
「はっ!」
名に一瞬歪んだ笑みを口元に浮かべるがそれはすぐさま消え柔らかい笑みで兵士に話し掛ける。兵士も声を張り敬礼をすると、急いで城門を開門する。



開けられた城門からまっすぐ謁見の間に続く階段を上り、ルーク達は扉の前へと立つ。そんな状況で、扉の向こうでは別の問題で口論が行われていた。









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