焔と渦巻く忍法帖 第三話

密談が終わるのを只待つのは面倒だとドアを大袈裟に開けて老け髭に向かって走りだし、
「師匠、お待たせしました!!」
と息を切らしながらキラキラした画面演出が付きそうな程の笑顔でセリフを投げ掛けた。
対する老け髭も、
「行儀が悪いぞルーク」
と口元に笑みを浮かばせながら近付いてきたルークの頭を優しく撫でた。
(おわっ!!気持ちわりぃ!!)
嫌いな相手に頭を撫でられて気持ちいい人間はいない。しかしルークは持ち前の演技力で心の中で叫ぶだけですませている。



剣術指導の時間が終わる少し前に何者かが侵入してきたのをルークは感じていた。注意深く気配を探っていると何やら歌声が響いていた。歌声を聞けば聞く程眠気が襲ってくるのを感じ、とっさにルークは侵入者から意識を外した。
(歌で眠らせるのか?警備の兵が意識を失っているだけなのはそのせいか)
しかしルークには解せない。わざわざこんな(ルーク以外の人間にとって)警備の厳しい場所に侵入する意味がない。目的が屋敷内にいる誰かの命が目的なら屋敷の外でその人物を狙えばいい。例外で屋敷から出ない自分を襲ってくるのなら話は分かるが、恨まれる様なことはこちらでは何もしていない。なら何か物取りの為に侵入してきたのだろうか。否、気配を確認したら正面玄関の兵が崩れおちていた。盗みに入るのなら侵入するならするで誰にも気付かれないようにするべきだろうと。それに歌を聞かせるだけで人を眠らせるなどという術はこちらの世界ではルークは知らない。情報を集めてこの術の使い手を絞り出せば少からず容疑者は限られてくる。侵入者は姿を見せていないが、既に情報は入って来ているのだ。
(何の用があってきたか知らねーけど捕まるぞ)
その用も成功するかどうか分かんねーけどな、と無関心を決めこむ気でいっぱいだった。



剣術指導が終わり侵入者の気配を改めて探るとこちらに近付いてきているのが明らかだった。侵入者が近付くにつれ歌声が近くなり、ガイや老け髭や庭師のペールも眠気が襲ってきたのか辛そうに眠気と格闘している。眠気を感じてはいるが三人程大袈裟なくらい眠いということはないのでルークは眠いフリをしているだけだ。
「ようやく見つけたわ。裏切り者ヴァンデスデルカ覚悟!!」
「やはりお前か!ティア!」
(老け髭の名前か?ヴァンデスデルカって。確か古代イスパニア語で‘栄光を掴む者’だったな。んー、偽名か?ヴァン・グランツってのは。それにそれを否定せずに相手の名前を呼ぶのは間違いなく顔見知りって事だ。神託の盾騎士団の服着てるから身内に何かとんでもないことをやろうとしているのがバレたってことだよな?つーか、この女も女で堂々と屋敷に入って来るって馬鹿か?暗殺は影から気付かれない様にやるもんだぜ。それに騎士団の服着てやってくるって明らかなキムラスカへの敵対行動だ。ダアトの兵士がファブレ公爵邸を襲ったものとして、キムラスカがダアトに最悪宣戦布告させるきっかけになるぞ。軽く見てもダアトはキムラスカに政治的な圧力がかけられることは間違いないだろうな)
屋根の上から降って来た侵入者の女と老け髭のこのやりとりを冷静にルークは分析していた。
(ん~、一応この状況はどうしようか?師匠大好きな‘ルーク’としては師匠の危機に体を張って侵入者に立ち向かうべきか?)
先程考えていた侵入者と老け髭のことはさておき、今は目の前で起こっている修羅場にどう対応するかだ。見た所まだ歌の効果が効いているのか辛そうに侵入者と老け髭は戦っている。
(あー、やっぱり助けるフリ位はするべきかな?)
そうと決まれば・・・
「何なんだよお前は!」
といい、全力で切りかかる(実力がバレない程度に手加減はしている)ルーク。侵入者も声に気づいてルークの剣を杖で受け止めた。



『聞け・・・我が声を聞け・・・ローレライの意思よ届け』
「なっ!?」
(何だこの声は!?)
『力を解放せよ!!』
(誰か俺に干渉してやがる!早くこの女から離れねぇと!・・・駄目だ!!)
「間に合わねぇ!!」
剣を合わせた瞬間に発した光に危険だと感じ、直ぐ様離れようとしたルークだったが光に包まれ逃げようにも逃げられなくなっていた。
(あー、クソ!!面倒くせぇ!!)
ナルトのアカデミーの同期であるシカマルの口癖を心で呟いた時に光が増し、意識をルークは手放した。




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