焔と渦巻く忍法帖 第十七話

死んでよかった、不穏な話になり話題の本人と猪思考姫がルークに対する非難の視線が注ぐ。この二人は気付いていないのだろうか、マルクトのこの場においてルークが『鮮血のアッシュ』の居場所を消滅させようとしていることを。本人の意志など関係ない、起こした事実を『鮮血のアッシュ』という空白のレプリカルークに押し付けようというのに。



「ヴァン謡将は預言により大役を果たすと言われたルークの身代わりさえいればそれでよかった、つまり以降ヴァン謡将は手元にオリジナルルークがいればよかった。鮮血のアッシュ、なんて人物はヴァン謡将からすれば必要ないんです。結局ヴァン謡将は力、ローレライの力の超振動が目当てなんですから。例えそれは鮮血のアッシュが生み出されていなくても私がいることで明らかです」
言葉の矛先がピオニーにではない、煙デコにはっきりと向かう。オリジナルとしての存在意義、優劣感など粉々に打ち砕く。オリジナルだから優遇されていた、イオンよりも痛烈な言い回しは煙デコの怒りを煽っていく。
「ヴァン謡将は例え私が死んで鮮血のアッシュがキムラスカに行こうとしたところで困りはしなかったでしょう。彼が行ったところで七年間どこにいたという質問には鮮血のアッシュとしてダアトにいたと答えるしか残っていません。国の追求に意識を持っているのに記憶はないなどとのたまえる訳もありませんし、黙秘権など許される程キムラスカは甘くありません。そこでばれたら鮮血のアッシュは罪人ですからね、すぐに殺される事間違いはなかったでしょう」
「!!!」
殺されると聞き表情が青ざめる猪思考姫。
「鮮血のアッシュはレプリカだからこそ行動の自由が許されたんです、使い捨て扱いだったからこそ。ですがオリジナルだったならヴァン謡将はそれこそ彼を死ぬ気で守ったでしょう」
事実は逆、オリジナルだからこそあそこまでの暴走が許容・・・はされていないが、老け髭は問題をうやむやにしている。
「・・・だからこそ死んでくれてよかった・・・彼がのうのうとキムラスカに戻ったならファブレの名にまで傷をつける事になってしまうから、鮮血のアッシュの起こした罪をファブレの人間が起こした事にしてしまうから・・・」
ありもしない人間を想い嘆くように顔を手で覆い隠しルークは顔を背ける。しかし覆い隠したその目から放たれたのははっきりと煙デコを確認するための観察の眼光、その視線の先にいたのは話を聞き立場を理解したのか困惑と認めてはいけないと自分のやったことを否定しようとする強い感情をあらわに混ぜた煙デコだった。
「・・・見苦しい所をお見せしました。ですが鮮血のアッシュは既に死んだのです、犯罪者の汚名と自らがオリジナルだという主張とともに・・・」
同じレプリカを想い表情を暗くしながら話すルークに罪があると知りながらも、同情の思いが『鮮血のアッシュ』に降り注ぐ。しかしそれもルークがレプリカの立場になってこそだ。
もしここでオリジナルである煙デコがアッシュだったなどと言えば容赦ない視線がまず降り注がれるだろう。そしてタルタロスの件もある、マルクトにとって許すなどすっと行くはずがない。
それにここまで鮮血のアッシュがレプリカだとお膳立てしているのだ、そこで命を無駄にしてまで自分がアッシュだと言えるような底抜けの馬鹿ならもう庇い立てもしないが、命だけは大事な煙デコはそこまでの根性もない。



つまりこの時点でアッシュという名の日だまりは消滅、消えた存在で扱われる事になった。名乗れなくなった煙デコはもはや一進一退も出来ず、その罪だけを意識に背負う事となった。







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