焔と渦巻く忍法帖 第十七話

「それにカイツールで六神将が襲って来たってあった。そこで一つ、国境でも港でもはっきりしてる事・・・お前はやる気がないって露呈してる事だ。六神将のアッシュに保護した人間を襲われて、何の対応も取らなかった。港においてもそうだ、どっちでもいいだと?導師やルーク殿の意見を取り入れるのも必要だが、自分の意見を述べるのも大事だろうが。お前は傍観に徹するだけ徹して自分の責任から逃れてる。国を越えた問題に関して最善を尽くす為にお前を信じて名代に出したんだぞ?なのになんでそれを放棄してやがる・・・どうしてお前は人任せにしやがった・・・」
「・・・それは・・・」
天を仰いだ状態から頭を下げて顔が見えないピオニーからの切実な声に、さしもの眼鏡狸ですら口を濁して答えを出さない。それもこの皇帝という人物からの言葉に本物の失望がこもっているのがわかるからだ。
「・・・もし預言がなくキムラスカと無事に和平がなったとしても、今の話をキムラスカが聞いてたらまずマルクトに不利な条件で和平を結ぶ事をちらつかされてたな。最悪即行の宣戦布告、どうあがいても悪いのは俺らだ。そうなりゃ争いを静める為にマルクトが出す対応、そしてキムラスカから求められる対応は」



「ジェイド、お前の首を差し出す事だ」



「っ!」
首、つまりは死。事実上のこの場での死刑宣告にも等しい言葉に眼鏡狸の顔が険しくなり、息に詰まる。だが表情以上に声が先に眼鏡狸から焦って出て来る。
「首・・・何故ですか!?陛下!」
今までの人を馬鹿にしたような笑顔の能面は壊れたように、激情を露にする眼鏡狸。その訴えにピオニーは手を退けてゆっくり前を向くが、その瞳は哀れな物を見るかのようにさみしげだ。
「・・・国の名代が国を怒らせる行動を起こしてんだ。それが自らの本位でないと示す場合、勝手にやった事だと対外的に示さなければいけないんだ・・・つまりお前は俺の本位でない行動を取ったって事だよ。しかしキムラスカはもう戦争の準備で忙しいだろうから不敬を訴えられてもそれは戦争の理由の一つにしかならない、すなわち聞く必要はない。だがルーク殿の情報は国の行く末を左右し、このマルクトという国を信頼出来る物なのかとお前の処遇により天秤にかけている。・・・だから俺は国の為にも・・・ルーク殿にお前の首を差し出す事にした」
力はないが確かなピオニーからの宣告が眼鏡狸に届く、と同時に眼鏡狸は鋭く視線をルークに送る。
・・・そこにははっきり口元に笑みを浮かべ、絶対零度の視線を向けたルークがいた。
だがそれも瞬間の事、勘違いの視線とかちあいになる前にルークは前を向く。まだ何かを話そうとするピオニーへと真面目な表情を作り。
「・・・もちろんジェイドを名代に出した俺にも責任はある。こう言える立場ではないのは分かるが、俺も貴殿からの情報を受け取り十分な対策を取った後で皇帝の地位を退く考えだ。他の臣下までには迷惑はかけられん、責任は俺が引き受ける・・・これでいいだろうか?ルーク殿」
退位をかけての取引、それだけピオニーは本気なのだと理解することが出来る。まぁこれは妥当な範囲ではある、下の不始末を引き受けるのは上。これは一般常識においても当然だ、ましてや名代に命じたからには皇帝の意が眼鏡狸の言葉にあると取られるのだから軍人で1番上の立場の元帥の首を差し出しても不釣り合いなのだ。だがかといって皇帝の首と引き換えというのは流石に話がこじれる。首まで望めばそれこそマルクトがルーク達の手を逆に拒むだろう、これこそキムラスカが寄越した刺客なのだと。故にいらぬ口だしが入らないのはここまでがギリギリなのだ、ルークにとってもマルクトにとっても許せる裁量の幅は。



・・・しかしマルクトにとって問題なのは裁量などではない。皇帝を退位にまで追い込むほどの状態を引き起こした張本人だ。
「「「・・・」」」
ゼーゼマン以下の臣下は既に眼鏡狸を軽蔑混じりの視線でしか見ていない。辺りにいる兵士にいたってはピオニーの号令待ちと言わんばかりに、眼鏡狸に重心を向けて捕縛の準備をしている。この中には眼鏡狸の味方はいない、そう理解するには十分な程眼鏡狸には害意が注がれていた。










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