焔と渦巻く忍法帖 第十七話

それにこれは分岐点、よもやまだまともな臣下陣は眼鏡狸の処断に異論を挟む事はないだろうが、この目の前の皇帝は礼儀作法に関して砕けた部分が多い。

ここでトップがわずか、一欠けらでも情けをかけるようならルークはマルクトへの手を引いてしまおうと考えていた。






「・・・ルーク殿、その前に一つ確認させていただく。おい、ジェイド。親善大使にルーク殿が任命された後、お前はどういったルーク殿の意見を切り捨てた。答えろ」
対するピオニーはルークの問いに即答せず、断りを入れて眼鏡狸に任命後の下りを聞く。
「・・・アクゼリュス出発となり先に行こうとした時、私達の元に導師が掠われたとの報告が入りました。ルーク・・・殿は導師奪還の任は受けていないのだから先にアクゼリュスへ向かうべきだと言い、私以下の他の一行は導師の身に何かあれば一大事だと導師奪還を優先しました。意見の食い違いにより私達はルーク殿と離れ、導師奪還を優先して導師を救い出したのですが私達がアクゼリュスに向かった時にはアクゼリュスの住民の方々は救出されておりました」
ルークに殿とつける事に抵抗を見せる眼鏡狸だが、二重の意味で圧力がかかる事で丁寧な口調で話をする。しかし報告を聞いた瞬間ピオニーの表情が止まってしまう。
「陛下。現実逃避は止めていただきたい、これは名代をカーティス大佐に任命された貴方の責任です」
すかさず下手の態度で話していたルークが不敬極まりない物言いで間を詰める。だがあいにくマルクトは既にルーク個人より弱い立場だ、この程度の物言いは断然許される立場にある。
「・・・あぁ、確かにそうだ。もうこれは許される範囲の出来事じゃない。だからジェイドへの罰は俺が直々に言わせてもらう・・・ジェイド」
「・・・はっ」
皇帝が過ちだと認め自分達もそうだと考えてしまった以上、臣下達は口を挟む余地はない。ただ眼鏡狸だけが失意を燈した臣下と陛下の視線に何も反論出来ず、ピオニーの声に頷く事しか出来ない。
「・・・まさか俺はここまでお前が罵られるような態度を露骨に取るとは思わなかったぞ。マルクトじゃ俺がお前を重用していて言葉面が表向き丁寧なもんだからな、臣下からも反対の声は出なかった。けどお前は俺をたしなめる為に暴言混じりの言葉も平気で吐くし、軍内でも俺の懐刀って言われてたからお前に意見を出せるような奴は数える程だ・・・けど俺はそれでもお前なら役目を果たし、キムラスカにいい心象を残してくれると思った。だから俺はお前を名代に命じたんだ・・・」
そこまで話すと、ピオニーは天を仰ぎ見るように手を顔にやり上を見る。
「・・・預言が本当にマルクトの戦争を表しているというならキムラスカは最初から和平に踏み切る事はなかっただろう、それは見せかけなんだからな。だが預言があるなし別にしてもお前の態度は目に余る、ルーク殿がキムラスカの貴族だからではない。軍人ではない非戦闘員であるはずの他国の人間のルーク殿をまるで自分の手駒のように扱った事、これは例え貴族であるルーク殿でなくとも一般人は保護という形で扱わないといけない。事故だと証言している以上、マルクトに来たのは故意ではないんだから保護をしなけりゃいけない。なのにお前は保護どころか戦力に加え、さも当然と言わんばかりに危険な目に合わせた。これ、ルーク殿でなくとも証言すれば即刻開戦のきっかけになるってわからなかったか?ジェイド」
「・・・」
前を向く事も出来ない程追い込まれたピオニーの説明に眼鏡狸は何も言えない。実際民の証言というのは馬鹿には出来ない、寧ろ貴族よりも発言に自由な風潮がある。人の噂は千里を走ると言うが、噂は人を通じてこそ走る物で民衆発信の物だ。死霊使いと呼ばれる眼鏡狸が起こした事だ、キムラスカなどどうとも思っていなかったなど保護した民から噂が流れれば犬猿の仲の二国の事、和平など上にはともかく民衆には受け入れられる事はなくなる。
むろん貴族であったルークが表にはっきり証言したならその時点で和平など綺麗さっぱり無くなる。貴族というのはより話の重みを強くする付加効果、民以上に国の中心に浸透しやすい。
・・・そのような問題を起こさない為にも軍というのは規律を作り他国とはいえ民を守るのも任の内に入れている。しかしそれを易々と眼鏡狸はぶち破ってくれた。



マルクト側からすれば頭が痛いどころか今すぐベッドに倒れ込みたい程の不祥事だ、それはピオニーも今の様子からすればそう感じているはず。その言葉には力が感じれない。







13/22ページ
スキ