焔と渦巻く忍法帖 第十七話

「・・・続きですがルーク殿はカーティス大佐の言葉に従い、タルタロスの中に兵士達とともに入られました。そして与えられた一室において和平に是非協力していただきたい、出来ないというなら機密事項の保持の為に牢に繋ぐのもやむなしとおっしゃったとのことです」
「・・・っ!」
辺りから絶句、といった息を呑む音が幾つも聞こえる。先程とは違い態度に露骨とまで行かずとも、注意深く視線をやれば気付く事の出来る物。それも眼鏡狸が馬鹿正直に愚行を明らかにしたが故、信憑性が一気に増して信じないといけない領域に入ったからだ。
「・・・受け入れざるを得ない状況、ルーク殿に残された選択肢は一つしかなく和平の口添えをすることをカーティス大佐に伝えた後、私達六神将率いる神託の盾がタルタロスを強襲しました。そして黒獅子ラルゴに発見されたカーティス大佐は封印術を受け、それでも尚タルタロスを取り戻そうと占拠を終えた神託の盾がいる中ルーク殿とグランツ響長の力を借りればイケると申したそうです。あまつさえ封印術を受けた今、二人より多少戦える程度という頼りない言葉を放ったそうで」
言葉尻に段々と刺がこもっていく、サフィールとて変化に絶望だけを感じていた訳ではない。尊敬していた人物からの一種の裏切りにより、怒りすらも覚えていた。
「その後はブリッジを抑えようとして敢え無く失敗、魔弾のリグレット指揮の元今度は本当に牢に繋がれたとのことです・・・ここまで聞いて私は思いました・・・あぁ、夢は夢なのだと。私の好きだったジェイドという人物はとうに変わり果てていたのだと、傲慢で短慮極まりない人間になったのだと」
「・・・聞き捨てなりませんね、あなたごときにそこまで言われる覚えは・・・」



「黙れ、ジェイド」



サフィールからの自らを下げる発言に眼鏡狸が鋭い視線と怒りを伴わせるが、途端にかけられたピオニーからの威厳に溢れた、皇帝と呼ぶに相応しい制圧の声が通る。
「ですが陛下・・・!」
「口答えをする気か?これは皇帝命令だ」
「・・・はっ、失礼しました」
その声を尚無視して自分の意を強行して述べようとする眼鏡狸だが、命令と言われ不満そうに引き下がる。もうそのあからさまな態度だけで罰がついても全くおかしくはない。
「さて・・・ディスト。後は簡潔に以降の問題点だけ話してくれ。お前がネビリム先生復活を諦める程ジェイドに絶望したのはわかったからな」
「はっ。タルタロスを脱出してイオン様を助けた後、セントビナーを経由してカイツールに到着。ですがここで鮮血のアッシュが独断でルーク殿を強襲、その出来事にカーティス大佐はなんら危機感を持つ事なく逃げ出すアッシュを対策も取らず逃がしたとのこと。そしてキムラスカのカイツール軍港で呼び出されたとの事で人質に取られた人間を助けに行くといったイオン様を、危険だと強く止める事なく曖昧な言葉で結論を濁していたそうです。あまつさえどうするのかというルーク殿の問いにどっちでもいいんです、と一言のみ・・・私がルーク殿から聞いた事柄はここまでになります。お分かりになられましたか?越権行為という言葉の意味が、彼がどれだけ愚かかということが」
言いたい事は言い終わったと言わんばかりのサフィールの最後の嫌悪に満ちた眼鏡狸を指す話し方に、ピオニーは皇帝としての引き締められた表情のままサフィールからルークに視線をよこす。そして・・・



「すまなかった、ルーク殿。カーティス大佐の不作法、誠に・・・失礼した」
深く、深く。感謝ではなく今度は謝罪として皇帝の頭が垂れられた。瞬間ルークの口元にほの暗い影が口角に現れる。
「・・・陛下、何故そのように頭を下げるのですか?私があなたにいただきたい物は謝罪などではありません。カーティス大佐への罰を与えるあなたのお姿を見たいんですよ?」
「・・・何?」
和らいだ声と要求、結びつかないそれにピオニーは純粋に理解出来ないと頭を上げる。
「彼の行動及び発言に私は不慮とはいえマルクトに侵入したことで、その立場から大きな発言も出来ませんでした。ですが親善大使として任命されてから後、彼は私の意向を真っ向から切り捨てました。故に私は先程明かした預言の事実をこの名代という人物に明かさぬまま、アクゼリュスの住民を私と親愛なる友の二人だけで救出させていただきました。ですがアクゼリュスの方々の保護にはあなたがたマルクトの地以外該当する場所がありません。そこで陛下、先程まで渡した情報以上の物が欲しいというのであればカーティス大佐の罪を陛下直々に明らかにしていただきたいんですよ。そうでなければ私はこれ以上情報は提供しません、名代の過ちを認めるならあなたが名代を裁いて下さい」
持ち掛けられた取引とは言えぬ取引、マルクトにとって受けねば損になると分かる物は断る理由はない。






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