焔と渦巻く忍法帖 第十七話

・・・そして語られていくサフィールの口からのルークの道程中においての無礼の数々。まずはエンゲーブにおいて、ルークに対する行為。



「・・・そこでお話によればカーティス大佐は既にルーク殿の事をエンゲーブにてファブレ子息だと確信していたとの事。ですがルーク殿の言によるならカーティス大佐はダアトの大事な和平の仲介人である導師イオンを一人にして護衛の任を放棄してしまい、ルーク殿達が付いて行かなければライガの巣窟と化していたチーグルの森の一角に単独で向かっていたとの事です。その後ルーク殿がライガとの闘いで疲弊しているという状況でバチカルから飛んで来た元凶であるティア・グランツ響長と一緒に強制で捕縛したとの事です。要求に応じぬようならいかなる手段も辞さないと」
バチカルからタタル渓谷まで飛ばされエンゲーブへ辻馬車で向かった、そこまで話した後一気に眼鏡狸の至らぬ点に話が変わる。
(おーおー、爺さん達一気に表情変わったよ。貧血や脳卒中で倒れちまうんじゃねーかな?)
話の内容を受け入れればそうもなるなとルークが感じていると、周りの兵士も愕然として固まった気配が伝わってくる。
サフィールの言葉にはルークだけではない、イオンに対しての怠惰まで含められている。この言葉はキムラスカ側であったルークだけの視点から見れば虚言だとでも否定が出来るが、イオンはダアトというはっきりとした第三者で尚且つ仲介という大役を頼み込んでいる。そんな人物が軍人の見失いました、その時殺されましたなどという呑気な一声で片付けられるはずがない。
ましてや死霊使いなんて二つ名を持つ不吉な人間の犯した行為、ダアトが導師を殺す為に一連の流れを組んだと言われ声高に叩かれる事確実だ。今イオンは無事だがはっきりと言えば眼鏡狸のせいで死んでいてもおかしくはなかった、そう考えるとゼーゼマン以下の臣下の変わりようも同情の余地がある。なまじ眼鏡狸より薄氷の上での出来事だと理解しているばかりに。



「・・・ディスト、悪い少し止めてくれ」
「はっ」
話が続けられていくのかと思いきや、ピオニーが右手で顔を覆いながら左手の掌を押し出すように前にだす。サフィールはディストと呼び名を改められていることに、覆われた顔の下の心情を察しながら声に従い一声返す。
「・・・ジェイド、今ディストが述べた事に嘘はないか?」
ぽつりと力無い、そう感じたのはルーク。だが毅然とした声色だと感じたのはマルクト兵士達。見解の相違があるのはピオニーの声に僅かな震えがあったからこそ、気付いたか気付いていないかの差だ。
「・・・嘘はございませんが?」
潔白だと信じて疑わないからこそなのか、終わった事に意味などないというのか、あるいはその両方なのか。質問を正直に、何より怪訝そうに答える眼鏡狸。
(うわぁ逝きそう、あの爺さん)
けどこれで少なくてもマルクトの上にいるのは礼儀知らずばかりじゃないな、お迎えが来てもおかしくない老人の顔色の悪さにルークはそう考える。



だが特に顕著な変化を見せたのはやはりピオニー。
「・・・マジかよ」
本当にぽつりと誰にも聞こえない程度の声をルークが拾い聞くと、その声には落胆の色。いや、ピオニーだけではない。中にいるマルクトの人間兵士将軍一切関係なく小声で信じられない、そんな類の言葉を口にしている。



そこまで聞こえてルークは一つ疑念を抱く。あの時タルタロスにいた第三師団の兵士達は眼鏡狸の対応、そしてチーグルの森に行き先の検討をつけていたのにも関わらず眼鏡狸より後にのうのうと現れたコウモリ娘に対してどう思っていたのだろうと。
(・・・それなりの態度って言ったあの時わざとらしく頭下げた時近くにいた兵士は驚いてたけど、頭下げるって事マルクトでも稀だったんだろうな)
ルークなりに察するに、まず謝る・願い出るといった行動自体が希少なのだと考える。マルクトで異例の能力の高さでちやほやされ、表向きの態度の丁寧さに態度を改める者もいなかったのだろう。そして皇帝の懐刀と言われ、信頼を受けていたからこそ第三師団の兵士達も多少なりの行動の行き過ぎた面も看過していたのだと。
(そのツケ、のしつけて返してくれんよ)
甘やかす環境を作ったのは皇帝、甘やかされてきたのは部下。そして煽りを受けたのは他ならぬ自分。
「・・・ディスト、続けてくれ」
手をどけ現れた顔は覚悟を決めているが、確実に部下の不手際を聞く事に対する覚悟。眼鏡狸はその表情の意味を理解出来ず顔を歪めたまま、サフィールの言葉を待つ。







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