焔と渦巻く忍法帖 第十七話

「あぁそうだな、話を聞かせてくれ。そちらの二人も顔を上げてくれ」
真摯な表情に変わったピオニーの声に、パイロープとサフィールも顔をうやうやしく上げる。
「・・・ん?お前、サフィールか?」
二人の顔を見るピオニーはサフィールを見ると、怪訝そうに顔を歪め質問をする。
「・・・お久しぶりです、陛下」
察するに昔の知り合いだろうと友好的な口調のピオニーに、サフィールは口調を落とし丁寧な態度を崩さない。
「先に一つ言わせていただきます。私はサフィールとして陛下と会う為にここにルーク殿と参った訳ではありません。私はダアトの神託の盾六神将のディストとしてこの場に参った次第です」
その言葉には一種の決意が込められている。真っすぐピオニーを捉らえて話さない視線は、ピオニーを少しだけ目を見開かせる。
「・・・神託の盾としてか?ならお前は先程の報告にあった預言の件に何か関与しているというのか?」
「はい、その通りです」
乗り出すように前傾姿勢になったピオニーの質疑に迷いない答え、淀みない応答を返すサフィールはルークに顔と掌を上に向け話を振る。
「ですが私はルーク殿とお会いし、この預言に対するダアトとヴァン謡将率いる神託の盾の姿勢の愚かさ、そして自らの行動を振り返り考える機会に恵まれました。故に考え直した私はダアトの預言実行を阻止するべく、ルーク殿に協力するため神託の盾より証言者としてここに参りました」
そしてゆっくりピオニーに頭を下げたサフィール。内心自らが行こうとしていただけに知り合い発言に出鼻をくじかれたルークであるが、その語り口はマルクト側の興味を引き付けるには十分だ。
「・・・ヴァン謡将率いるだと・・・?どういう事だ?お前の言い方だと、ダアトとは別の団体みたいな話し方だったが・・・?」
二つに分けられた呼称に食いついたピオニーに、ルークはしばらく任せようと傍観に徹する事にした。
「はい、その通りです。事実彼はダアトに反する事をしています」
「・・・何をだ?」
「その前に陛下、私が神託の盾に入ったのはヴァン謡将にレプリカ技術を研究していることを見込まれての事なんです」
「レプリカ技術だと・・・!?お前、まだネビリム先生の事を・・・!」
・・・何も知らないからこそ熱くなるピオニーに、強い意志を持っているからこそ冷静で事実だけを述べていくサフィール。だからこそサフィールはより冷静に、信憑性を持たせるべく淡々と事実だけを話す。
「軽蔑していただいても構いません、罰を与えていただいても私は一向に構いません。ですが私はもうレプリカ技術の研究には手を出す事はございません。ルーク殿にカーティス大佐の事を話していただいた時、ネビリム先生の復活を願うのは止めようと思いましたので」
「???・・・なんでジェイドが関係しているんだ?」
出て来たのが眼鏡狸で話に脈絡を感じられない事で、ピオニーは訳が分からないとサフィールに眉を寄せながら問う。しかしそれは眼鏡狸も同様で、ピオニーとは違い無言でサフィールに視線を寄せる。



「カーティス大佐の変貌ぶりを聞き、理想と現実の差に気付かせていただいたのです。あまりのルーク殿に対しての無礼、越権極まりない発言及び行動に昔のままでは人はいられないのだという事を」
「・・・え?」
マルクトの大佐への侮辱に取られかねない発言、それに反論もなくピオニーは呆気に取られる。
「・・・ディスト殿、申し訳ありませんがルーク殿からどのような事をお聞きしたのですか?」
ピオニーが何も言えなくなり沈黙が少し訪れる中、ピオニーの側に立っていた老人・ゼーゼマンが緊迫感を持った雰囲気でサフィールに質問する。まぁ国の酷評を聞き平然としていられるようなら、愛国心の有無が問われるので皇帝の許可無し発言も気持ちはわからないでもない。
「ルーク殿からの又聞き話でよろしければお話致します」
ゼーゼマンに答えるようにサフィールは話すと返す。ピオニーもそう聞くとはっとしてサフィールに集中して意識を向ける。






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