焔と渦巻く忍法帖 第十七話

「貴方はアリエッタのイオン様じゃない・・・!・・・けどルーク、死んだイオン様に近い能力を持っていなかったら、貴方も同じように殺されていたかもって、言いました・・・許す事なんて、出来ない。出来ないけど、そんなこと聞いたらアリエッタ、貴方を敵って見る事も出来ません」
今も心に残る被験者のイオンへの想いが、アリエッタの今のイオンへの辛うじての情を生み出して歯止めをかけている。そして元来身内に非情になりきれないアリエッタが、身の上事情を聞けば押し止まるのも理解が出来る。
だがそれでも母親の問題を仕方ないで片付けようとしたイオンに、怒りが勝っているアリエッタは精一杯の拒否を泣きそうに嫌悪感に満ちた瞳でぶつける。
「・・・だからアリエッタ、貴方の事、見たくないんです。どうしても、やっぱり許せないから・・・」
「・・・っ・・・・・・・・・」
確かな拒絶、それを確実に受けたイオンは何か言おうとも出来ずに声を詰まらせ、両手で青く染まった顔を覆い膝をつく。



・・・イオンの周りにはよくも悪くも好意だけでイオンに付き従っている人間は一人もいない。惑星屑・老け髭は言うに及ばず、コウモリ娘を始めとする導師守護役も同様だ。コウモリ娘はスパイの件から好意だけとはどうみても言えるはずがないし、他の導師守護役もコウモリ娘に専属お付きのポジションを奪われていて常にイオンといれるはずがない。イオンはイオンなりに信用を他の導師守護役にも置いていただろうが、いかんせん仕組まれた人員配置では信任を置ける導師守護役はコウモリ娘以外近くにいないだろう。

だが仕組まれた配置に強く好意でイオンにアプローチをしていたのは、前導師守護役として仲睦まじいとされていたアリエッタだ。アリエッタは好きという気持ちでイオンに度々接触しようとしていた。人のいいイオンが自らを慕うが故のそんな行為を不快に思う事はない。イオンの中ではアリエッタは好意の対象になるのは当然・・・

だがアリエッタははっきりとイオンを拒否した、数少ない人生の中で純粋な思慕の念を一番くれたアリエッタが。名前すら呼ぶのも憚りたいと言っているような、『貴方』という呼び方で。

・・・イオンの胸中に訪れた物は今まで否定・拒絶といった物から縁がなかったからこその、心胆にクル悲しみと衝撃だった。



「・・・行くです、ルーク」
崩れ落ちるその姿を見たアリエッタはルークを見上げる事で視線を反らす。
「あぁ、そうすっか。シンク、サフィール。テオルの森に着く前くらいには俺は起きてくっから、なんか異常あったら俺に言いに来てくれ。あいつには間違っても変な事言わないようにな」
「えぇ、惨劇に立ち会うのは御免被りますしね」
「じゃあ迂闊な行動取らないならお前らも自由にしていいから・・・お休み」
注意を促し解散だと告げる会話を就寝の挨拶で締め、アリエッタの肩を抱きながらルークはブリッジから退出していく。



「・・・さて、あんたらはどうする?」
再び残された八人、イオンが何も言えず崩れ落ちている事以外変わらない室内にシンクの質問が向けられた。
「ま、大人しくするしかないのはあんたらの方がよく知ってるか」
瞬間向けた質問を途端に嘲笑に変え、自己完結させる。それを舐められたと感じたのか、煙デコは苛立ちと殺気を盛大に含ませた睨みをシンクに向ける。
「てめぇ・・・!」
「僕とやる?いいよ、ナルトに乱入されて首を飛ばされたいならね。ナルト、相当不機嫌だったから僕の制止も聞かないと思うけど?」
「・・・・・・チッ!」
ナルトという単語が出て来た瞬間苛立ちは困惑に変わり、また苛立ちに戻った煙デコは盛大な舌打ちを大きく間を空けあらぬ方向に放つ。
「そうそう、大人しくするんだよ。じゃあね、僕も休むから。イオンと役立たずな導師守護役の心のケアはあんたらがやりな」
「私も行きますよ、シンク」
薄い反骨心を一蹴し、シンクも部屋を出ると辛辣な一言を残しブリッジから出ようと背を向ける。サフィールもそれに乗っかるように近くに置いてあった浮遊椅子に座り、ブリッジを出ていく。






・・・シンクもサフィールもブリッジからいなくなり、残された面子が共通して見せた物は見当違いの悔しさに歯を食いしばる姿であった。










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