焔と渦巻く忍法帖 第十六話

その顔を見てフェミ男スパッツが、宥めすかそうとしながらも釈然としないといった怒りを伴わせ、ナルトに声をかける。
「ナルト、酷いんじゃないか?彼女も苦しんでるんだ、そこまで追い込む事はないだろう?」
「はっ、いいご身分だってばね。責められてないから余裕を持って擁護に立つなんて。でも安心していいってばよ?この場にいる全員、テメェも含んだ奴らに同じような目に合わせてやるから。ちゃんと一人一人・・・な。そん時、もう一回このコウモリに同じように哀れみの視線向けて擁護出来たら見直してやるよ」
その瞬間怒りはどこへ霧散したのか、代わりに戸惑いになる顔と雰囲気。自分の落ち度はない、周りもそう思っていたのか大層似たような顔つきだ。
「浅いってばね。自分が責められるってわかった瞬間、被害者になるのかって被害妄想を感じて自己防衛だけに意識を集中するなんて。自覚がないならこれからの旅路をせいぜい苦しめってばよ、自分の罪が何かを考えるだけ考えてな。まぁ十中十でその罪は大外れだろうけど」
十中八九ではなく十中十、一か二程の可能性すらないと断じる。はっきり言われたそれに不快感をあらわに出来ず、悶々と言った爆発を堪える一同の様子。だがナルトは一切気にした様子はない。
「それに酷いとか言ったけど、これは命を保証するかわりの司法取引って奴なんだってばよ?」
「司法・・・取引?」
「そうだよ眼鏡。軍人のお前なら知らないはずがないだろうけど、これは本来国が減刑を条件に罪人に国の為に働くよう求める一種のシステム。今回のこれは罪を隠す代わりに協力しろって言ってる物だと思って割り切れってばよ。まぁ罪を許す気がないのは俺らが自覚してないコイツを嫌いなのと、俺らは国じゃないから罪を減刑することは出来ないからだけどな。だから・・・割り切れなきゃ死ぬぜ?この司法取引はこれからもまだ一人一人にのしかかってくんだからな」



今度は戸惑いから一斉に恐怖に満ちた物に変わる。司法取引というシステムは罪人救済の為にあるのかと問われれば実はそうではない。罪人がその稀有な能力を自ら国に売る事で減刑という事例もないことはないが、実際は有益な情報や力等をやむを得ず罪人から得ようとする、言わば急場しのぎの苦し紛れというケースがほとんどだ。話に聞くような罪人の人間性を信じて減刑の為司法取引、なんて事は絵空事に過ぎない。

システムを引き合いに出したのはまだ現実を知らない一同に、解りやすい例えに出して言ってみただけの事だ。



「シンクとサフィールはさっき行った通り、司法取引に応じた。アリエッタはまぁ個人的に色々あったからルークが説得してる。多分説得でついてきてくれるとは思うってばよ。そしてイオンとそこのコウモリにも司法取引を持ち掛けた。これはその結果なんだってばよ?感謝される筋合いはあっても、俺が怒られる筋合いは白髪一本分もないってば。生きたいって俺達に言ったのに見当違いな怒りを見せるな、ヘドが出る」
正論と怒気がナルトから同時に溢れ、何も返せない一同。
元々国と個人の間で強者にあたるのは勿論というか、国だ。国が個人の手綱を握るのは当たり前、罪人であるのだから尚更だ。司法取引をナルトという国から提示しているのに、個人の一同が不満を表すのは減刑を心から望んでいないことになる。強者の言い分をまるで無視したその言い方は庇護を切り捨てると言ってるような物だった。



自らの立場をまだ理解していないこと、それこそが一番のナルトへの侮辱だった。




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