焔と渦巻く忍法帖 第十六話

「「「「「!!!!!」」」」」
一気に空気が乾き、呼吸を忘れる程固まる一同。だがナルトは苛立ちながらも笑顔になり、喋ることを止めない。
「この事実はお前らが一蓮托生の立場にならなきゃいけない事を表してるんだってばよ。これを共有して、秘密にする。そうしなけりゃ、お前らは一つにならないからな」
「・・・そんな・・・けど、だからって私の親の借金の事なんて言わなくていいじゃん!」
コウモリ娘の悲鳴混じりの甲高い声が室内に響く。だが苛立ちの募るナルトは固まった笑顔で、声色が一気に冷たく低く落ちる。
「へぇ、なら売り飛ばされたいのか?マルクトに」
「!?」
自分に悪い所がないと言いたげな主張に見えるコウモリ娘の顔が、一瞬で怯えに変わる。
「罪が同情なんかで消える訳無いだろ。そんなもんで消えるもんなら法も裁きもいらないってばよ。けど俺らはこの世界の摂理に反した行動取ってるんだってば、それならどうやってスパイの罪を償う?いや、正確にはお前の罪を許してもらおうとする?」
「・・・それは、あんたらに協力すれば・・・」
「俺らはお前を許す事はない、勘違いするな。罪を償い許してもらいたいならマルクトに行って、スパイの罪を明らかにしろってば。俺らがやるのはお前が公に裁かれないようにすること。罪悪感があるなら公の場に出ろ、そのかわり死ぬ覚悟があるならな」
「・・・!?」
言葉に詰まり反論が出ない時点で、罪悪感より生命の事を優先している。正に紙のごとき薄っぺらさだ、贖罪に対する意識が。
「俺とルークは絶対にお前を見直す事はない、罪を無い物扱いにする限り。だからお前は自覚し続けろ、自分が裁かれようと身を差し出さない限り罪は消えない事を。だから自分が悪くないって言い続けるなら、俺らに黙って着いてくればいいってば。傷の部分をそいつらに見てもらいながら、可哀相可哀相って言われ続けろ。けどそれでもらえるのは自分が生かされてるって虚しい実感と、自己嫌悪への道。同情されればされるほど陥るってばよ、罪悪感に。ま、それでも何も感じないなら心底人間の屑になるってばよ?」
言われた意味が理解出来ない、それはコウモリ娘だけではなく周りの面子も同様の顔になっていた。
「ちょっと俺達三人以外の眼を見てみろってば」
そこでナルトはコウモリ娘に他の奴らを見てみろと促す。最初は何事か全くわかっていなかったコウモリ娘だが、一人一人顔を見渡していくと徐々に顔が歪んでいく。
「・・・何よ、何よそれ・・・?・・・何よ、見ないでよ!そんな目で見ないでよ!・・・止めて、同情なんていらない!・・・いらないよ、同情なんて・・・」
「どうしたの、アニス!?」
視線の感情が同情でしかない、それは責められるコウモリ娘に対してのもの。だがその視線も前置きあってこそ、居心地の悪さを実感できる。
ただ哀れだ、なんて一言で済むような感情からの慰めは不愉快極まりない。許すなんて言葉も個人での気持ちで言われたところで免罪符になるものじゃない。
一歩後ずさり、頭を抱え修頭胸達を罵るように見るなと声高く言うがより一層同情の眼が強くなる。責められ辛いだろう、負けるな。そう似たような視線がコウモリ娘に注がれ、本当に泣きそうな声でコウモリ娘は膝を抱え頭を下げしゃがみ込む。その様子に修頭胸が心配そうに背中をさするが、ピクリとも反応しようとしない。



ナルトはただそれを教えただけに過ぎない、知らない事が増長と勘違いを引き起こす。優しいと同情は違う、そして免罪と許容は違う。ナルトは優しいのではない、温い場から引きずり出しただけ。

ただ人の立場に立てない一同に、温い中に居続ける人物達に理解出来るはずがなく上っ面だけの言葉は尚きつくのしかかる。ホントは許されていない、なのに勝手に許したように勢いだけで甘く言葉をかける。



そして追い打ちをかけるように、ナルトは笑顔を解いて顔まで凍ったように無表情で言葉をかける。
「償うつもりもなく生きるなら、せいぜい生きればいいってば。けどどんなに悩み苦しんでも、それは自己満足に過ぎないってばよ。罪を償いたいなら俺らに言え、すぐにマルクトに差し出してやる」
ビクッとコウモリ娘の体が揺れる。とは言ったものの、コウモリ娘は絶対にマルクトに売られようとは言わないだろう。これは罪を自覚しなければいけないと言われ、その恐怖に対しての怯えだ。
・・・コウモリ娘は結局極端に走れる人間ではない。イオンと惑星屑のどっちかを選ぶとしたらイオンだろうが、状況次第では仕方ないの一言で惑星屑につきかねない。そんな移り気な人間には狭間で苦しむ事がお似合い、選択に迷わせるくらいならいっそ選べない状況にしてやろう。
震えるその姿にナルトはうまいこといったとほくそ笑まずにはいられなかった。






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