焔と渦巻く忍法帖 第十六話

「アリエッタ、泣くのはまだ早い。導師イオンの身代わりなら一人いれば十分役割を果たせる。けどそこにいるイオンとは別にシンクも同じイオンのレプリカだ。何故二人以上、イオンのレプリカがいるか分かるか?」
「ヒェッ・・・?・・・なんで、なんですか・・・?」
服の裾で涙を拭いながら、アリエッタはわからないと間を空けて答える。
「それはアリエッタの知るイオンと同じように、ダアト式譜術を使えるイオンのレプリカを作ろうとモースとヴァンの狸狐親父どもが何人もレプリカのイオン達を作ったからだ」
「!?」
途端アリエッタの為にと優しい仮面を被っていたルークの顔が、嫌悪感に彩られ瞬間で変わる。アリエッタに向けられてはいない、老け髭と惑星屑へのもの。声色すら狂気にしか思えず、アリエッタも泣くのを止めて驚きに身を引く。
「これはサフィールから聞いた事だが、ダアト式譜術をイオンが使っていた威力で使えるレプリカが産まれるまでイオンの代わりを作っていたって話だ。その指示を出したのはその二人だよな、サフィール?」
「・・・ええ、そうですね。モースからは多少ならごまかしは聞く、だからダアト式譜術をまともに使えるレプリカを作れ。ヴァンからは計画の為にダアト式譜術を使えるレプリカを何体作ってもいいから、完成させろ。私はそう言われ、七人の導師のレプリカを作りました。そして体調を崩しやすいがダアト式譜術を使えるレプリカ、二人から言えば成功作のイオンが彼になります」
掌を仰向けにしてイオンを紹介するように、手を差し出す。イオンは居心地が悪そうに身じろぎをして、一同はその顔を凝視する。
だがここではっきりさせておく事、それは今の話をサフィールからルークとナルトは聞いていないという事だ。ルークはただ話せとサフィールに目配せをしたに過ぎず、サフィールは事実をありのままに話しただけだ。もっともルークも話したようなやり取りや背景があったと確信していたから、話を振った訳だが。
「でだ、残り六人のイオンのレプリカ。その中にシンクもいたわけだが、そのあとシンクはどうされそうになった?」
続いて話を振られたシンクは気にする様子もなく、普通の音声で答える。
「火山に落とされかけたよ、ちなみに僕以外は火山に落とされたけどね」
「「「「!?」」」」
何事もなく返されたその返事に衝撃が入りイオンから一気にシンクに視線が向く。そこにはいつもと変わらぬシンク、動揺のカケラすらない。
「直接僕らの廃棄を決めたのはモースだ。あいつはレプリカの僕らを一瞥しかしないで、廃棄とその一言で僕らをザレッホ火山に捨てる事を決めたんだよ。そこのイオンを別の場所に連れていく前にね。その後一人づつ火山に放り込んでいかれた僕ら、そこで最後に火山に落とされそうになった僕を助けたのがヴァンなんだけど・・・笑っちゃうよね。善意で僕を助けなかったんだ、あいつは。世界が憎いなら私に手を貸せ、ってね。結局あいつら、レプリカに求めてるのは導師の代わりと力さ。導師のイオンが必要なだけで、イオンって個人が欲しい訳じゃない。そんな奴らに使われるだけ使われるなんて馬鹿らしいと思わない?」
誰かに明確に問うてはいない。だがその言葉は確かに響いている、アリエッタの心に。
「イオンの死を隠していたのはアリエッタの為というのもあるかもしれない。けどこれは導師イオンに対しての冒涜でもある、何せ導師を省みずに力だけを求めたんだからな」
敬愛する人物を踏みにじられるという行為は、誰しもが怒りを覚える物。怒りを感じないというのであればそれはその程度の間柄でしかない。アリエッタはイオンの変化の仕方で泣くような敬愛の度合いを見せている、例え老け髭や惑星屑が好意の対象であったしても怒りを覚えないはずがなかった。
「・・・許せない、です。イオン様の代わりなんていないのに、モースと総長、イオン様の事嘘ついてごまかしました。イオン様の力と代わりだけ欲しい、なんて・・・許せません・・・!」
沸々と涙を眦に溜めながら、アリエッタは老け髭と惑星屑への怒りをあらわにする。好意を消すのに一番効果的な説得は好意を上回る憤怒を覚えさせる事、そしてその好意を自らに向けるように方向を見せていく。そうすれば並大抵の事ではくじける事はなくなる、故にアリエッタを好意で制御しやすくもなっていた。





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